近年レセプトデータなどの、いわゆるビッグデータを用いた研究が増えてきています。ビッグデータは各データは浅い(粗い)ものの、悉皆性の高さ全体としてのデータ量が大きいことから、これまでの施設ベースの研究とは異なった切り口のエビデンスを創出することが期待されます。脊椎関連では国家規模のレジストリであるSwespineや、アメリカの公的医療保険データであるMedicareを使った研究をみかけますが、今回は後者を用いたビッグデータコホート研究の例として、CORR(2019IF4.3;整形外科5位)の論文を読んでみます。

What Is the Value of Undergoing Surgery for Spinal Metastases at Dedicated Cancer Centers?


研究疑問 :特定がんセンターでの脊椎メタ手術の費用対効果は?
研究デザイン :データベース研究
セッティング :Medicare(原則アメリカの65歳以上全員が加入)
*2005~2014のdataを使用

P 脊椎メタで手術を受けた患者(椎体形成のみは除く)
E 特定がんセンターで手術
C 特定がんセンター以外で手術
O 合併症/コスト(術後90日)

特定がんセンターでは、Medicareでも例外的に包括支払いではなく出来高払いが行われる。担癌患者の寿命伸延に伴い脊椎メタおよびその手術が増加し、効果は報告されている。しかしがんセンターが費用に見合う効果を提供しているかは不明である。そこで調べてみました!という研究。

【方法】
・ICD-9コードで「除圧術」「固定術」「脊椎メタ」を同定
・「がんセンターかどうか」も同定
・ほか背景因子として以下を同定
 - 年齢、性、地方、低所得地域かどうか、原発巣、合併症
・施設因子として以下を同定
 - 都心か、病床数、がん認定病院か、脊椎メタ手術数、公私
・手術因子として以下を同定
 - 術式、手術椎間数、術前放射線/化学療法
・合併症の定義は以下
 - 創部、循環、塞栓、敗血症、肺炎、尿路感染、腎、救急受診、
   インプラント問題、再手術、再入院、死亡
・コストは手術日から術後90日までを集計
・1138/17776(6%)が特定がんセンターの手術だった
・解析はまず検定
・合併症の発生割合差は混合効果ロジスティック回帰
 - コストの差はγ分布/対数リンク?の混合効果モデル
 - いずれも施設因子で層化し、背景因子と手術因子で調整

【主な結果と結論】 
特定がんセンター vs 非特定がんセンターで差がついたのは以下
 敗血症 7% vs 10% aOR 0.54 (0.40, 0.74)
 尿路感染 19% vs 28% aOR 0.61 (0.50, 0.74)
 腎障害 9% vs 13% aOR 0.55 (0.42, 0.72)
 救急受診 27% vs 31% aOR 0.78 (0.64, 0.93)
 死亡 39% vs 49% aOR 0.75 (0.63, 0.89)
 コスト差 -14802$ [SE 1362]; p<0.001  

との結果で、特定がんセンターは質が高く低コストな医療を提供しており、その仕組みを他の病院も学ぶべきでしょうとの結論。

<Limitationのまとめ>
・著者全員が特定がんセンター所属だった
 - でもちゃんと報告してますし、data自体は客観的です
・細かな術式の情報がない
 ‐ 固定のみが想定外に多かったのも変
・若年層が入っていないので一般化に限界
 - でも特定がんセンターの例外的包括支払はMedicare受給者に限定
 - 特定がんセンターの価値をみる研究としては妥当な対象
・施設因子に総スタッフ数、看護師比率、レジストリへの参加がない
 - でも経時変化する変数だから捕まえれない
・術者の経験や技量のデータもない
・施設による手術テクノロジーのデータもない
・がんの状態のデータもない

【批判的吟味】★★★★
「施設効果」という介入の効果をみる研究なので理論的にはRCTがbestですが、施設へのランダム割付とか無理だし、盲検化もできないので実質データベース研究一択です。データベースはテーマに沿っているし、悉皆性も高いので相当いい研究!どうしても各変数は浅くなってしまい、(limitationにかなり厚く書かれていますが)原疾患や脊椎病巣の病状、術者の経験と技量、術式など最も重要な因子が未測定/残余交絡となって大きく比較の質を損ねてはいます。が、有意にならなかったアウトカムも含め、軒並み特定がんセンター>非特定がんセンターだったことからも、結果は頑健かと。小規模だけど深い研究と比べると、対象の代表性や純粋な検出力に大きな優位性があります。

【コメント】
研究テーマによっては相当有効なデータベース研究、データベースへのアクセスやデータソース突合の敷居が下がって、日本でももっと色々できるようになれば素晴らしいです。研究デザイン力や解析の引き出しを増やして、未来にそなえなきゃ…