昨日の記事で「研究対象」について考えることの大切さ、最強の研究デザインであるRCTにおいても問題が生じ得ることを述べました。以前とりあげた、昨今の椎体形成術をディスる風潮の大元となったVERTOSⅣを例に説明します。とりあえず例の図。

選択バイアスについて

C:源泉集団(研究結果を当てはめたい母集団)
B:標的集団(研究でアクセス可能な集団)
A:研究集団(実際に解析した集団)
*呼び方は僕が便宜上勝手につけています。

これをVERTOSⅣに当てはめると、

C:BMJ読者の目の前にいる椎体骨折患者
B:オランダの4病院放射線科を受診した、50歳以上、T5-L5の椎体骨折(3椎体以内)、発症9週間以内、骨密度低下(Tスコア-1以下)、椎体高が15%以上減少、MRIで輝度変化あり、VAS5点以上、重度の心肺合併症・凝固異常・感染・悪性腫瘍疑い・神経症状なしの患者(計336人)
A:研究参加に同意した156人

こんな感じでしょうか。まずBがCの代表になっているか?オランダの医療事情は存じませんが、日本の脊椎外科を受診する人と似たような集団でしょうか。また恐らく外来受診者が主だと思いますが、救急搬送されて入院した人とはどうでしょうか。平均すると発症6週間弱の集団ですが、発症より早期の人に絞っても結果は同じでしょうか。

続いてAがBの代表になっているか。B全体336人のうち、156人(46%)が参加を拒否しています。この拒否はとくに理由なく生じているのでしょうか。

VERTOSⅣは非常に厳格にデザインされていて、解析や測定は信頼できそう、すなわち得られた結果は(平均的には)Aにあてはまる結果であると言えます。ただBやCにあてはまる結果かどうかはわかりません。このように、いかに厳格なRCTだろうと、研究対象に関するバイアス(いわゆる選択バイアス)は避けられません。なので結果の解釈には十分注意が必要で、BMJに載ったから!色々な偉い先生もそう言っているから!と世論を鵜呑みにすることは、脊椎の専門家はしちゃいけないことだと思います。ただ弱点を指摘するだけでは全く反論にはなりませんので、選択バイアスを考慮した質の高い研究をしないといけないですが…