ちょっと思うところがあり、手術合併症の論文を読んでみました。2013ESJ、台湾の整形外科からの報告です。

Symptomatic epidural hematoma after lumbar decompression surgery

研究疑問  :腰椎術後の症候性硬膜外血腫(SEH)のリスク因子は?
研究デザイン:ケースコントロール
セッティング:台湾の大学1病院

P 腰椎手術患者(25+75人)
E 各リスク因子あり
C 各リスク因子なし
O 術後SEHによる再手術

*8年間で15562例の腰椎手術があり、うち術後SEHで再手術した25人と、起こしていない75人をランダムサンプリング(マッチングはせず)
*術後SEH25例の内訳は22例が除圧+PLF、3例が除圧のみで発生割合は0.16%
*リスク因子は術前因子が11(性別、年齢、体重、DM、HT、血型、抗凝固剤の有無、INR、血小板数、収縮期血圧、拡張期血圧)、術中因子が9(手術椎間数、除圧椎間数、固定椎間数、出血量、手術時間、尿量、ゼルフォームの使用、クロスリンクの使用)、術後因子が1(ドレナージ量)

術後SEHの発生割合は0.2%程と非常に稀だが、強烈な馬尾症状をきたし大変。そのリスク因子がわかれば臨床に役に立つので調べてみました!という論文。単施設で年間約2000の腰椎手術ってどんな施設、、、結果ゼルフォームの使用、ドレナージ量に有意差がつき、早期診断と治療が重要との結論。

【批判的吟味】★★★
研究構造と結論に脈絡がないことはさておき、「ゼルフォームの使用なし」や「ドレナージ量の少なさ」が術後SEHと関連するかもという結果は臨床的に共感できるところ。ただ「ゼルフォームの使用」は標準化が難しく測定誤差が半端ないでしょうし、「ドレナージ量」を単純に比較するのはナンセンスです(効かないのは×だし、多すぎるのも変)。結果も交絡やバイアスを殆ど考慮せず検定したのみなので、あくまで探索的で強いことは言えません。関連の強さの指標もありませんし。

【コメント】
この研究疑問を解決するには

 ①「術後SEH発生」例の特徴を詳細に記述するケースシリーズ(複数)
 ②①をもとにもうちょっとリスク因子候補を特定
 ③「腰椎手術」登録制度(レジストリ)を構築して、②の情報も含めて収集
 ④「腰椎手術」レジストリ内でケース・コントロール研究をやり直す

をするしかないかなと思いました。本研究は折角25例もの術後SEHの経験があるなら、変に比較研究するんじゃなくて、①としてもっと詳細な症例報告をしてもらった方が意義のある研究になった気がします。術後SEHについて調べるつもりが、また軽くディスる流れになってしまった。やっぱ性格曲がってるのかな、、