JBJSの最新号に思春期側弯(AIS)に対する手術の効果をみた興味深い論文があったので紹介します。フィンランドの小児整形外科(と麻酔集中治療?)の先生を中心に臨床科学家?や生物統計家が集まったチームから。

Back Pain and Quality of Life After Surgical Treatment for Adolescent Idiopathic Scoliosis at 5-Year Follow-up

研究疑問  :思春期側弯(AIS)に対する後方手術の除痛効果は?
研究デザイン:前向きコホート(対照群は先行研究から)
セッティング:フィンランドの1病院

P AIS患者
E 後方手術あり(49人)
C1  同一患者の術前
C2 未治療49人)
C3 AISなし49人)
O 健康関連QOL(SRS-24/SRS-r22)
*C2は他施設データ(347人)から年齢、性別、側弯タイプをマッチさせて抽出
*C3は国家レジストリデータ(272人)から年齢、性別をマッチさせて抽出
*SRSの7下位項目のうち主に痛み、自己像、機能、活動性(各5点満点)を使用

AISに対し椎弓根スクリューを用いた後方手術が普及しており、矯正とその維持効果についてはエビデンスがある。しかし除痛効果についてはわかっていないので自験例を調べてみました!という論文。術後5年で「痛み」は平均4→4.3点に改善し、「機能」以外は概ね未治療群より高得点であり、AISなし群と有意差がつかなかったという結果で、手術により健康関連QOLは改善し、「機能」以外は健常者と同等のレベルになるという結論。

【批判的吟味】★★
検証が非常に難しい研究疑問であり、価値のある研究だと思います。しかし方法論、とくに比較の妥当性は厳しい。「術前後で痛みが改善している」ことの根拠は単純な前後比較(他の治療などの共介入が考慮されていない)ですし、未治療群やAISなし群との比較は、尺度が異なる(SRS-24とSRS-r22)こともふくめ異質すぎる。また結果の解釈も厳しい。「痛み」における術前後の差0.3にどれくらい意義があるかがわかりません。また手術群とAISなし群の比較では、実際は全項目で0.2ほどAISなし群の方が高得点で、有意差がついていないだけ。すなわち手術群のほうが優れると解釈できる結果ではない。またMethodsででてきたNRSやSRS合計点が殆ど触れらず、(いい結果じゃなかったからと)意図的に隠されているフシもあります。

【コメント】
この研究疑問を解決するにはやっぱりRCT一択、でも非成人に矯正手術のRCTをするのは現実無理ですから、観察研究することに全く異論はありません。ただミスリーディングを誘導しないように最低限の質は必要ですし、とくにこのように「結構盛っている論文」の場合、読む側にも注意が求められます。JBJSですし、本研究が「AIS手術の除痛効果の確固たるエビデンス」として引用されていかないかちょっと心配です(非常に限られたエビデンスとしてなら引用する意味はありますが...)。