「英語論文の書き方」の講義で、日々「良質の論文」のみを読みなさいと教わりました。ただ脊椎外科は領域的にもそう簡単には出ません。そこでEAで検索して過去の論文も振り返ってみようと思います。今回はバンコマイシン粉の有害事象に焦点をあてたカリフォルニア大整形外科からのEA星5つの研究を。

Selection pressures of vancomycin powder use in spine surgery: a meta-analysis.

臨床疑問  :バンコマイシン(VCM)粉使用は耐性菌発生を増やすか?
研究デザイン:Systematic Review
セッティング:全世界

P 脊椎手術患者
I VCM粉の創内散布あり
C なし
O SSI発生時の起因菌がグラム陰性 or 多菌
*サンプルサイズ10以上で、対照群にも血培をとっている研究をすべて包含 

VCM粉の創内散布はSSI予防効果が期待される一方、耐性菌発生が懸念される。そこ調べた研究はないので調べてみました!という研究。結果は

 ・RCT2本、観察研究26本を包含
 ・総SSI発生はVCM粉群で197/8456 (2.3%)、対照群で412/10846 (3.8%)
 ・VCM粉群の総SSI発生オッズ比は0.6 (0.51, 0.71)
 ・SSIのうちグラム陰性 or 多菌SSIの割合はVCM粉群35.8%、対照群18.5%

などがメタアナリシスで示され、VCM粉使用で怪しいSSIが増加するからat riskな患者以外には使用しないように!という結論。

【批判的吟味】★★
構造はシンプルでわかりやすいのですが、まず効果の指標が微妙です。調べたいのはVCM粉を使うと怪しいSSI(グラム陰性 or 多菌)が増えるか?なので(それで臨床疑問である耐性菌発生についてわかるかはさておき)、単純に両群の怪しいSSI/群全体を比べるべきかと。しかし実際は怪しいSSI/総SSIを比較しています。VCM粉群の総SSI発生は減っているので、これでは何をみているかわかりません。

というより、それ以前に表と本文で数字が違う…。恐らく表の記載ミスだと思うのですが、主要アウトカムでこれやっちゃったら科学論文としてはもうアウトでしょう。これ査読者に指摘させるのは酷なので、研究者の完全自己責任です。レビュー文献としてもやはりもうちょっとちゃんとやってもらわないと厳しい。具体的には
 
・検索が緩い(キーワード検索だけでは×)
・プロトコル段階での公表(論文発表やPROSPEROへの登録)がない
・組み入れ論文の質の評価(RCTならRoB 2、非RCTならROBINS-Ⅰ)がない
・質に関係なくメタアナリシスするのはタブー

などの点です。「VCM粉のSSI予防効果」についてのフォレストプロットやファネルプロットを載せてそれっぽくみせてますけど、そもそも調べているのは「怪しいSSI発生との関連」なのでロジックからズレてますし…まとめ論文は「現時点でのエビデンス総体を最もよく表すもの」ですし、やっぱり他人の褌で相撲をとるのでちゃんとやらないとダメです。

【コメント】
期待して読んだのですが、読めば読むほど怪しさ満載で結局ディスることに涙。レビュー文献注意して読まないと怖いです。てかなんちゃってレビューでSpine Jなら通るのか...引用もたくさんされるだろうし、実績積む一番の近道かも、せんけど。EAの採点もクセ強いなぁ。