最近Spineにたて続けに傾向スコア(PS)を使った論文が発表されています。実際自分で使ったことはないので、勉強がてら読んでみることに。椎弓根スクリュー挿入法に関するアメリカはスタンフォード大学の神経外科からの発表。

Conventional Versus Stereotactic Image-guided Pedicle Screw Placement During Posterior Lumbar Fusions

研究疑問  :ナビ下椎弓根スクリュー(これもPS)は従来法に優るか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:Thomson Reuters MarketScan Commercial Claims and Encounters and Medicare Supplemental and Coordination of Benefits databases
*9億人分のデータを格納
*期間は2007~2016

P1 単椎間除圧固定 1786人
P2 多椎間除圧固定 2060人
E ナビゲーション使用
C ナビゲーション非使用
O 入院期間、合併症、再入院、再手術、退院先、医療費
*前方、頚椎、腫瘍、脊柱変形、外傷のコードありおよび保険加入1年未満を除外
*並存症と椎体間固定の有無で?PSを算出
*EとCを1:1マッチング
*マッチングのキャリパーはPSのロジットの標準偏差の1.5%
*期間を2007~2011、2012~2016に区切ったサブ解析も施行
*解析は検定
*P1P2で2年毎のナビ使用トレンドも評価

PS挿入は重要な手技だが、0.6%~24.5%の合併症の報告がある。ナビゲ―ション下のPS挿入は精度の向上と被曝の低減が期待できるが、エビデンスが少ない。ので国家データベースを用いて調べてみました!という研究。合併症割合はP1でE群15.6% vs C群14%(P=1)、P2でE群16.6% vs C群23.7%(P=0.034)と多椎間ではナビ使用の方が合併症が少なく、ほかP2群ではE群の方が入院期間が長く、再入院割合が低いとの結果。また医療費はP1P2ともにE群の方が高かったとの結果で、ややこしい症例にはナビ使用の価値があるかもしれないよ、という結論。

【批判的吟味】★★★
現実的に介入試験が難しい手術手技に関する研究として、ビッグデータを用いて準実験デザインの観察研究を行うことは正当な手法(王道)だと思います。丁寧に施行されているし、limitation(以下参照)も厚く述べられているし、結論も控えめな点も好印象。

・再手術の定義が甘い
・症例の難度、手術侵襲を考慮していない(ナビ群に不利)
・ナビの種類を分類していない
・手術時間の情報がない
・レセプトデータなので誤分類が多い

ただし、PSを用いる前提条件である「未測定交絡がない」はどの程度満たされているでしょうか。まずPS算出にどういう変数を用いたかが明示されていないのでよくわかりません(付録でもいいので欲しい)。またTable 1.に示された情報がPS算出の材料だとすると、limitationで述べられている症例の難度のほかに、術者の技量や患者のアドヒアランス、骨質関連の情報などの重要な要因は入っていません。データソースの説明がないのでどういうデータが利用できるかがわかりませんが、かなりのビッグデータなので高次元PSの使用や、せめて服薬状況の調整はできなかったのでしょうか。

あと単椎間の除圧固定で合併症割合約15%ってのは多い気が。結果をそのまま日本に当てはめるのはちょっと微妙かもしれません(きっともっと低いはず!)。

【コメント】
とにかく9億人分のデータって半端ない。スタンフォ―ドだから使えるのか?公開されてたりしないんでしょうか。そんなわけないか…それだけボリュームあったら、いろんなことできちゃいますね。日本でこういう研究がやりたい人誰でもできるようになる日は来るのかなぁ...