最近たて続けにSpineに掲載された傾向スコア(PS)シリーズ第二弾を読みます。狭窄を伴う腰椎変性すべり(LSS+DS)に対して除圧術(片側進入両側除圧;ULBD)と除圧固定術の成績を比較した研究。テーマは非常に興味深いですが、永遠のテーマ的な...解決されたのでしょうか。

In Degenerative Spondylolisthesis, Unilateral Laminotomy for Bilateral Decompression Leads to Less Reoperations at 5 Years When Compared to Posterior Decompression With Instrumented Fusion

研究疑問  :LSS+DS手術においてULBDは除圧固定に優るか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:Kaiser Permanente Northern California (KPNC) healthcare system
*5施設レジストリ
*2007~2011のdataを使用

P ULBDもしくは除圧固定を施行したLSS+DS患者
E ULBD 164人
C 除圧固定 437人
O 主要:再手術(5Y) 副次:再手術法と高位、合併症(90D)、救急受診など
*対象の抽出にはICD-9-CMコードを使用
*まず「腰椎除圧」とその12M以上前に「LSS」「DS」コードがある例から、
 手術記録をみて罹患高位にULBDを施行している例をEとして抽出
*年齢、性、人種、喫煙からPSを算出
*E:C=1:3のPS最近傍マッチングでCを抽出
*Cはマッチング後に手術記録みて、該当しなければ再マッチ
*腫瘍、感染、ヘルニア、外傷、未成年、腰椎手術既往、前方手術などを除外
*研究期間内を通した保険資格がない例も除外
*ロジスティック回帰で交絡調整(詳細は不明)

従来DSに対する除圧は除圧固定より再手術が多いとされていたが、ULBDはもっと成績がいい可能性がある。これまで短期間の報告しかなかったので、5年followの成績を報告します!という研究。5年以内の再手術割合はULBD群 10.4% vs 固定群 17.2%と固定群に多く(P=0.045)、ULBDは安定したLSS+DSにいい選択かもしれない、前向き研究をしよう!という結論。

【批判的吟味】★★
この研究はちょっと厳しいです。まず標的集団(下図B)から「ULBDじゃない除圧をした患者」がごそっと抜けてしまっている。ULBDとそうじゃない除圧がランダムに選択されているなら問題はないですが、そんなわけはない。さらに微妙なマッチングで対象が限定され、研究集団(下図A)はもはやBを代表する集団とは考えられません。当然源泉集団(下図C)からもかけ離れるでしょう。

選択バイアスについて

C:源泉集団(Spine読者の目の前にいるLSS+DS患者)
B:標的集団(レジストリに登録された全LSS+DS患者)
A:研究集団(本研究におけるP)

また本研究においてPSを算出する際の統計モデルは「治療判断をする際の術者の頭の中」を数字化したものです。はたして術者は年齢、性、人種、喫煙の情報だけで手術の有無や術式の選択をしているのでしょうか?DSの重症度や骨密度、患者の「活き」や自身の得手不得手など様々な要因を考慮しているはずです。PSを使うためには未測定交絡がないという前提が(建前上)必要ですが、未測定交絡が多すぎる本研究でPSを使う意義は...

その他まだまだ問題(バイアス)が山積みですが、そんな中で得られた結果がギリギリ有意かつ効果量も小さい。ので本研究結果はバイアスをみているだけの可能性が大です。言い方は厳しいですが、「レセプトデータ」「PSマッチング」何かカッコいいからやってみよう!というだけの研究で、手元にあるデータを最大限活かす努力がなされていない。本件では、少なくともマッチングなんかせず全例調査は必須でしょう。

【コメント】
研究やる心意気には賞賛しかありません
が、誤解を招かないように真摯に研究しないと。どんな研究するのも、捏造しなければ個人の自由です。ただその研究に発信力をもたせるのはマズいでしょう。IF至上主義、電子化による論文自体の爆発的な増加、それに臨床研究リテラシーの普及が追い付いていない…問題は山積みですが、Spineは脊椎領域のリーダー的雑誌、敷居を下げずに格を維持してもらいたいです。この研究は載せちゃだめです…