Spineに掲載された傾向スコア(PS)シリーズ第三弾、これでひと段落でしょうか。これまでの2本はお手本になるような使い方ではなかったので、今回に期待です。頚椎前方椎体摘出術(ACC)において、顕微鏡使うかどうか?を調べた研究。どっちでもいいやん!という意見はさておき...

Propensity-matched Comparison of Outcomes and Costs After Macroscopic and Microscopic Anterior Cervical Corpectomy Using a National Longitudinal Database.

研究疑問  :顕微鏡下のACCは成績がよいか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:Thomson Reuters MarketScan Commercial Claims and Encounters Database, MarketScan Medicare Supplemental and Coordination of Benefits Database
*前者は勤務者とその家族を対象に、(たぶん)医療行為と検査データが格納
*後者はMedicare受給者とその家族を対象
*2007~2016のdataを使用

P ACCを施行した患者
E 顕微鏡下 4298人
C 直視下 4298人
O 合併症(30D)、入院期間、再入院・手術(30/90D)、疼痛管理、退院先、医療費
*後方固定、腫瘍、外傷、脊柱変形、保険加入1年未満を除外
*並存症と使用機器でPSを計算
*PSを用い1:1マッチング
*マッチングのキャリパーはPSのロジットの標準偏差の5%に設定
*解析は検定(多重検定はボンフェロー二補正)

頚椎前方椎体摘出術(ACC)は大変だけどアメリカでは増えてきている。椎間板切除においては顕微鏡の使用がよさそうだが、時間もコストもかかるので一概にいいとは言えない。とりわけ頻度の少ないACCで顕微鏡を使うべきかは全くわかっていないので、今回国家データベースを用いて調べてみました!という研究。入院期間はE群が有意に短く(1.56泊 vs 1.86泊)、再入院も少なく(30D:3.2% vs 4.2%、90D:5.9% vs 7.0%)、自宅退院が多く(92.5% vs 86.6%)さらに医療費は殆ど変わらなかったとの結果で、ACCにおける顕微鏡使用はいくつかの利点がありそうだよ!という結論。

【批判的吟味】★★★
これも前々回の論文と同じく、RCTが何かと難しい術式の良し悪しをみる研究疑問を解明するうえで、ビッグデータで準実験デザインをやるという王道的な研究。向学のためにどの程度ちゃんと限界(と言い訳)述べてるかさっくり列挙しますと...

・支払者のデータベースなので誤分類がある
 ←でも両群に均等に発生しているはず(なので影響は小さい)
・保険でカバーしていない集団のことはわからない
 ←でもサンプルサイズ大きいし、PSマッチングで背景揃えてる
・画像所見、身体所見や長期のデータはない
 ~言い訳なし

うーんちょっと苦しいか。2番目の言い訳は支離滅裂ですね。術式選択にかかわる「適応交絡」の調整がキモで、そのためには最後に述べている「画像所見」「身体所見」など疾患種類や重症度にかかわる情報がないのが最大の弱点なわけです。重要な未測定交絡があるわけで、「ビッグデータでPSマッチングしたからいいでしょ」みたいな言い訳は余計に創を広げるだけ...高次元PS使えたらもうちょっといいのでしょうか(触ったことないけど)。「雇用者とMedicare受給者」が源泉集団をどの程度代表するかなどの解説ももっと欲しかったですし(結果がどの程度臨床に活かせるかよくわからないので)。

【コメント】
でもやっぱりビッグデータはあると良いですね、羨ましい。データさえあれば、このくらい(といったら失礼ですが)の研究ならできそうです。もっとガチでやったらBMJ目指せるんでしょうけれど、私にはまだまだ実力不足...というか、外傷でも腫瘍でも脊柱変形でもないのにACCしまくってる!?そしてACCなのにインスツルメンテーションしていない例が5%も!?入院期間も平均2日以内...アメリカいっぺん観にいかないといかんですね。世界に目を向けなきゃ、善し悪しは別としてガラパゴス...