先日長崎大学にお邪魔して大変勉強になりました。その際に「イソジンでの創内洗浄は良さそうだよ!」と教えていただいたところ、丁度Spineにも関連論文が載ったようです。過去にハシリの論文であるイソジン創内洗浄の効果をみたRCTは読みましたが、どう発展したのでしょうか。

Reducing Surgical Site Infections in Spine Tumor Surgery: A Comparison of Three Methods.

研究疑問  :①イソジン洗浄+VCM散布は脊椎腫瘍手術SSI予防に効果的か?
 ②脊椎腫瘍手術SSI発生のリスク因子の探索
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:米ロチェスター大学

P 2003年~2018年に脊椎腫瘍の手術を受けた151人(174手術)
E1 イソジン洗浄+VCM創内散布 60人
E2 VCM創内散布のみ 46人
C いずれもせず 45人
O SSI発生
*変数は年、性、人種、BMI、Alb、組織、放射線、局在、術式、出血、除圧法
*術前後にCEP(アレルギーあればCLDM or VCM)投与
*イソジンは生食で希釈して0.3%に
*VCM粉は頚椎後方は0.5g、前方は0.1g、ほか後方は1-2g使用
*要因探索にはステップワイズ法を使用

脊椎腫瘍手術におけるSSI発生は4.9~30%と言われている。SSIを減らすにはイソジン洗浄や創内VCM散布がいいとされるが、脊椎腫瘍手術に絞ったエビデンスはない。ので調べてみました!という論文。結果は

・全体のSSI発生は15人 (9.9%)、15手術 (8.6%)
・各群のSSI発生はE1群2手術 (2.7%)、E2群6手術 (12.8%)、C群7手術 (13%)でP=0.04
・SSI発生あり/なしの群間では術前放射線治療に差あり(P=0.02)
・ほかBMIがリスク因子として抽出された

で、イソジン洗浄+VCM散布は効果的との結論。

【批判的吟味】★★
非常に興味深いネタなのですが、既存ののRCTにadd onできるデザインではないのが残念。せめてもうちょっと「メタの手術」に焦点を当てる重要性に触れて欲しかったです。解析が2×3表の単なる検定なのは弱すぎですし、イソジンのみ群がないのも行き当たりばったり感が否めません(仮説ありきの研究じゃなく、データからP値探検隊した雰囲気も...単位が人なのか手術なのか曖昧ですし)。少なくともこの研究でVCM散布の効果を匂わせる結論の書き方はまずいですし。もっとも重大な適応交絡や、15年間での治療の変遷などにも触れられていないですし、結果を鵜呑みにはできません。取ってつけたようなステップワイズもマイナスにしかならない気が…

【コメント】
ネタとしては重要ですし、この研究がSpineに載るならもうちゃんとしたRCTするしかないです!感染ホント嫌ですもんね。元来合併症など発生が少ないアウトカムにRCTは適しませんが、前例もあるし本研究のように対象絞れば200例ちょっとでできる計算。弱小民間施設で実験じみた事するのはいろいろな意味で敷居が高いですが...