とぜん先生が武漢からの衝撃的な論文を紹介されていたので、読んでみます。中国発論文は玉石混合(石多め)なので注意して解釈しないといけませんが、第一線からの報告に真摯に耳を傾け、臨床に活かさなければ。EClinicalMedicineという、Lancet系の由緒正しそうな雑誌(2018創刊でIFはなし)。

Clinical characteristics and outcomes of patients undergoing surgeries during the incubation period of COVID-19 infection.

研究疑問  :術後にCOVID-19を発症した場合の死亡リスクは?
研究デザイン:ケースシリーズ
セッティング:武漢4病院

P 待機手術後にCOVID-19を発症して新型コロナ感染が判明した34人
O  COVID-19発生、呼吸不全、死亡までの期間など
*術後に感染者と濃厚接触した3人を除外
 - 感染が術前か術後か判断できないので
*対象は2020.1.1~2.5の手術
*COVID-19の定義はARDS、心筋障害、腎障害、ICU入院
*手術Level(1-4;高い程高リスク)で層別

COVID-19は武漢から急速に世界中に蔓延してしまった。その潜伏期間中に意図せず行ってしまった待機手術の成績について報告します、という研究。主要な結果は以下のとおり。*期間はすべて中央値(四分位範囲)

・Level 1-4はそれぞれ 1人、11人、20人、2人
・術後合併症はARDS 11人、ショック 10人、二次感染 10人、不整脈 8人、心筋障害5人、腎障害2人
・L3手術の7人(20.6%)が死亡 (34歳~83歳)
・入院から手術までは 2.5 (1, 4)
術後からCOVID-19発症までは 2 (1, 4)
COVID-19から呼吸不全までは 3.5 (2, 5.3)
入院から死亡までは 16 (11, 25)

  よって、新型コロナ感染者に手術するのは危険かもとのメッセージ。

【批判的吟味】★★★
非常に重要な知見だと思います。ただ、研究対象は「術後にCOVID-19を発症した患者」であり、「新型コロナ感染下に手術を受けた患者」全体ではありません。COVID-19発症という未来を術前に知ることはできないので、我々が本当に知りたい情報は「新型コロナに感染(無症候)の人に手術しちゃったらどうなるか」です。そこを想像するためには、同時期に待機手術をした全員の情報(手術数だけでも)、そのうち想像できる感染者の割合、当時どういう「症候」にPCRをする方針だったか、待機手術でPCRをした割合、そのうち新型コロナ陽性になった割合、などの情報が欲しいところ。

また、手術のせいで死亡が増えたか(加速したか)?を調べるには、「似た特徴もち、手術を受けていないCOVID-19発症者との比較」が欠かせません。死亡20%は驚愕の数字ですが、手術なしでCOVID-19を発症したらどの程度死亡するか?を念頭に冷静に解釈する必要があります。そして、本研究でのCOVID-19の定義は厳しめである(だるさや軽い感冒症状だけは入らない)ことにも要注意。

ラッシュな経過であることは事実で、手術侵襲が経過を悪化させたのは間違いないでしょう。警笛を鳴らすには大げさなくらいの結果でいいと私も思います。ただ治療者には、手術を延期することで本来の病勢が悪化するというマイナス面と天秤にかけることが求められます。コロナ陽性なら手術中止に異論ある人はいないでしょうが、コロナ感染リスクが高くない人にはどうするか…そのあたり、JOAの指針は理に適ってます。

【コメント】
まぁ、COVID-19は当初思っていたより大分こわい!というのが正直な感想。まさかここまでの事態になるとは...そして、身辺に間違いなく迫ってきている。できる努力をしつつ、粛々と医療を続けるしかありませんが…