EAをcheckしていると、トップジャーナルであるAIM(2019IF21.3)から坐骨神経痛に対する保存療法(早期理学療法:EPT)のRCTが。臨床的にも方法論的にも勉強になりそうなので読んでみます。AIMに載ったRCTで星5/7ってのはどういうことでしょうか。

Physical Therapy Referral From Primary Care for Acute Back Pain With Sciatica : A Randomized Controlled Trial

研究疑問  :急性期の坐骨神経痛にEPTは有効か?
研究デザイン:RCT
セッティング:米2施設(2015.3月~2018.10月)

P 発症3M以内の坐骨神経痛220人
I  EPT
C 標準治療
O 主要:ODI(6M時点での変化量)
副次:疼痛、治療成功、ヘルスケアの利用、休職

プライマリケア領域の愁訴で腰痛は2番目に多く、その3割に坐骨神経痛を伴う。急性期の坐骨神経痛に対する保存治療に関するエビデンスは少なく、とくにEPTの効果についてはエビデンスが足りないのでRCTしてみました!という研究。

【方法の主なところ】
・受診6M以内に治療歴がない坐骨神経痛患者を特定
 - 手紙を送り、次に電話で参加意思を確認
・ほか包含基準は20<ODI、
・除外基準は1年以内の脊椎手術、妊娠、馬尾症状、麻痺
・変動ブロック法で1:1の中央割付
・両群ともに1回の教育セッション
 - その後4WのEPT(無料)と追加治療なしに割付
・ EPTは研究用のトレーニングを受けた認定PTが施術
 - 運動と施術で痛みを中心化し、消失させる
 - 2回/W×2+1回/W×2+αで合計6-8回/4W
・ODIのMICD7・SD16でサンプルサイズ計算
・解析には混合効果共分散モデルを使用
 - 各アウトカムのベースライン値を調整
 - 解析対象はITT集団?

【結果と結論】
・6M時点での追跡割合はI群87%とC群91%
・4Wの時点でプロトコル外イベントがI群39%とC群47%に発生
 - 脊椎外科受診(I群10% C群8%)や手術
 - I群の10%はEPT受けず
 - I群の3%、C群の13%が病院外の他の治療へ
・6M時点でのODI改善差は-5.4 (-9.4, -1.3)
・治療成功はI群 45% vs C群 28%
 - 相対リスク 1.6 (1.1, 2.4)
・ヘルスケア利用と休職に有意差はつかず

というわけで急性期の坐骨神経痛(麻痺なし)にEPTは効果ありますよ!との結論。

<ちなみにlimitation>
・介入時間を考慮していなかった?
・EPTのどの部分に効果があったかはわからない
・教育セッションも日常診療で行わない
 - のでC群が日常診療を反映するともいえない
・患者もPTも盲検化できていない
・白人が多かったので一般化できない
・対象を層化していないので、EPTが特に効果的な層はわからない

【批判的吟味】★★★★
解析は一部理解困難でしたが、全体的なフレームはシンプルでわかりやすいし、基本に忠実ないい研究だと思います。ただ、気になる点はいくつかあり

・発症3ヶ月ってそもそも急性期?
・Fig.2みると腰痛には効果ありそうだが、下肢痛には微妙
 - 実質みてるのは急性期の下肢痛じゃなく亜急性期の腰痛では…
・ODI差5.4ってピンとこない
 - 妥当なのはMICD達成者割合の比較
 - 盲検化できない状況での自己記入調査票の結果は怪しい
 - 効果ある!と言い切るには弱い気が…
・4Wから6Mの期間の治療情報がない
 - かなり他の治療の影響を受けそうなのも気になる

などなど、ほんとに急性期の坐骨神経痛(主に椎間板ヘルニアによる)を扱う我々脊椎外科医の臨床感覚からすると違和感も少なくありません。RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 High risk 
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 High risk
5. 選択的な報告 Low risk

RCTの質としてはちょっと厳しいかなと。本研究では割付の盲検化が治療者にも患者(=ODI評価者)にもできないのが最大の弱点であり「2.割付の盲検化」と「4.評価者の盲検化」がHigh risk。アウトカムの追跡が89%なのも痛いですが、「補助変数まで使った多重代入法で感度解析」までしているので「3.アウトカムの追跡」は甘めにLow risk。ただ、この研究疑問ではやむを得ないかと(じゃないとAIM載りません…)。まとめると、研究としては頑張ってるけど、結果は信用ならんといったところでしょう。

【コメント】
脊椎疾患には治療選択肢が少ないことが悩ましく、リハビリに効果あることが示されれば非常にありがたいです。ただ、リハビリは侵襲が小さくRCTが組みやすい一方、multimodalで標準化と一般化に難があり、質の高い研究が極めて難しい領域です。リハビリの世界にも臨床研究力を持った医者やセラピストが増えるといいなと思います。