二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:論文投稿のすすめ > 論文の書き方

イロイロ相談をいただいたり、和英問わず査読をする際に、研究対象者数Nを方法の項に書いてあることが多い(というか殆どそう)です。私はそれは修正した方がいいと思うのですが、なぜなのかを整理しておきます。

【Methodsに書くこと】
臨床研究とは、とある臨床疑問CQを解決しよう!と、データ集めて解析する研究です。そしてMethodsは「どうやってそのCQを解明するか」を詳述する項です。要因EとアウトカムOの関連を検証する研究を例に挙げますと、Methodsにはどういうセッティングで、どういう基準で対象者(P)を集めて、どうOやE/Cを定義・測定して、E/CにおけるOの差をどのように解析して示すか、欠測にどう対処するか、などを記します。当然研究の質を評価するに十分な内容であり、第三者が自分もやってみよう!と思ったときに別のセッティングで同様の研究が再現できるに足る内容であり、その他の無駄は省いて整理された内容である必要があります。

ここでPについて必要な情報は「どのような包含基準で対象者を選抜」して、「どのような除外基準で枝打ち」してPを決めるかであり、実数は不要です。ただし当然不可欠な情報ですから、Resultsの最初に記して、何ならFlow chartでわかりやすくするべきです。

【源泉集団と研究集団のちがい】
また、ちょっとひねくれた見方をすると、Methodsに対象者の実数を記すということは、自分が興味あるのは手元にあるデータだけですよ!と宣言するようなものです。研究が終わったら論文化を目指すわけですから、当然そのCQは著者の目の前の患者だけではなく、似たような境遇の他の医師や患者にもあてはめたいはずです。以前記した研究対象についての記事の図を再掲します。

選択バイアスについて
C:源泉集団(研究結果を当てはめたい母集団)
B:標的集団(研究でアクセス可能な集団)
A:研究集団(実際に解析した集団)

手元にあるデータAを解析して知りたいのは、Cにおける真実です。色々な統計解析はAがCの代表であることを大前提に、AからCを想像する手法です。ので、実際にみているのはAを通じたCです。なので、Bが何人でAは何人でした!とMethodsで宣言することには違和感が。MethodsにはCをみるためにこんなBを準備します(セッティングや期間)という情報を書いて、Resultsに結果としてBが何人でAは何人でした(参加拒否者や欠測の情報)を示すのがいいと思います。

【まとめ】
とまぁ理想を言えばキリがないのですが、NをMethods→Resultsに移動するくらい大した手間じゃないし、少しでも自分の研究の見栄えを良くするためには、一考の余地があるかと思います。こういう小知恵でメッキを貼り貼りするのも臨床研究力!?

最近仲良くさせていただいているK先生から「CONSORT」とか「RoB2」って何なの?とお問合せをいただきましたので、簡単に解説しておきます。私の勝手な思い込みが入ってたらすいません💦本記事では「CONSORT」について。

我々臨床家はキホン論文を読んで勉強します。まぁ実際は忙しいし,教科書を読んだり講演聞いたりして代用することが多いですが。いずれにしろ学んだことを自分の臨床に活かすか?を判断する際には、結果が信頼できるかの評価が欠かせません。評価するためには「ものさし」が必要です。でも普通ピンときませんので、「S〇ine」に載ってるから、偉い先生が言ってるから、自分の臨床経験に矛盾しないからといったことが基準になります。それで大外れはないかもしれませんが、他人まかせ感は否めません。

実は論文評価のための「ものさし」はいくつかあり、その一つが「臨床研究ガイドライン」です。論文に示された結果が信頼できるかどうかは「バイアスの大きさ」に依ります(バイアスの種類については別機会に)。そして「必要な情報」が示されていないと、バイアスの大きさを想像することができません。臨床研究ガイドラインは、その「必要な情報」を示す指針といえるでしょう。

臨床研究には様々な手法(介入研究、観察研究、症例報告etc)がありますが、実はその手法ごとにガイドラインがあります(ちなみにCONSORTはRCTのガイドライン)。なかには特定の研究テーマに特化したガイドラインまであり、これらを意識して研究するかどうかだけで大分違ってきます。素敵なことに、ガイドラインを検索するサイト(equator network)もあります。以下有名なものをはじめ420もガイドラインが紹介されています。
 
 RCT CONSORT
 観察研究 STROBE
 システマティック・レビュー PRISMA
 診断研究 STARD、TRIPOD
 症例報告 CARE

自分の研究テーマ、研究の型が決まったらまずガイドラインをcheckして、それに準じた研究デザインを組むべきでしょう。そして論文を査読する際はもとより、読んで勉強する際にも意識するといくらか惑わされにくくなるはずです。中には有志により日本語訳されているものもあるので、是非探してみてください。今初めて知ったけど、「手術関連の観察研究」「手術関連のケースシリーズ」のガイドラインまである…要checkや…

英語論文を書く際に、「言い回しをどうかえるか」はなかなか厄介な問題です。我々のような非英語圏の人間はとくに引き出しが少なく、似たような表現ばかりになりがち(ですよね?)。「英借文」をする時にも丸パクりは怒られるので、ちょっと表現変えたい!ということもままあるかと。その際に先述の「英語論文の書き方」の講師にお勧めしてもらったのが

Thesaurus.com
英辞郎 on the WEB


です。Thesaurus.comは検索枠に単語を入れると、その単語の同義語をrelevantな順に紹介してくれるサイトです。たとえば「Therefore」といれると「accordingly」「so」「then」「thus」…などと返してくれ、更にrelevant順に色分けしてくれます。

また英辞郎は英和辞書というだけではなく、例文がたくさん載っているため重宝するそう。無料版でみれるのは限られていますが、年額3300円コースなら全部みれるよう。実際に使ってみて、欲しくなったら登録するかなぁ…講師先生は「常に2本は執筆中、2本はunder reviewの状況を維持せよ」とおっしゃっていたので、それするなら必要かもしれません。










ちょっと順番めちゃくちゃですが、「英語論文の書き方」の講義で学んだことの1つ、文献引用のtipsについて(自分の解釈がはいってちょっとズレてるかも)。

 ① 全体で30本くらい目安
 ② 1つの論点で引用するのは2-3本
 ③ IntroductionとDiscussionで文献引用の目的が異なる
 ④ 自誌の引用を求められたら、2年以内の文献を引用する

①はとくに理由はなさそうです。

②は「〇の発生割合は△~▢%と報告されている」と引用するときに、先行研究を全部引っ張ってくる必要はなく、良いものから2-3本でいいでしょうとの事。

③はIntroductionでは「Methodsに続く方向性を決める」ために「背景情報」や「わかっていること」を引用する、一方Discussionでは「Resultsに基づく論理展開を裏付ける」ために「メカニズム」や「比較できる似たような研究」を引用するということでしょうか。

さいごに④ですが、なぜ「2年以内」がいいかというと、最新のIF計算に使われるのは過去2年の論文だけなので、旧い論文を引用しても雑誌のIFには貢献しないからです。Editorの仕事の一つは「雑誌のIFを上げること」ですので、新しい自誌の論文を引用すると喜ばれるとの事。

ちょっとしたことですけど、大事なことだと思います。

論文は誰に読んでもらうために書くのでしょうか。医療従事者、一般人や政策決定者などなどがぱっと思い浮かびます。ところが、現実的に想定すべき読者は「editor」だそうです(reviewerですらない)。何はともあれpublishされないと発信できないので、意識すべきはeditorだと。

editorにはざっくり以下3タイプがあるそうです。

 ① IF15の雑誌のeditor(それで生計たてる本職)
 ② IF7の雑誌のeditor    (本職ではないが真面目)
 ③ IF3の雑誌のeditor  (片手間)

Editorの使命はいくつかあって、主なものには「雑誌のIFを上げる」「その分野を牽引する」「お金を集める」などがあります。先述の①②③によってその使命に対する責任感が違っていて、とくに①と対峙する場合は、相手も本気なので立案段階で「こんな感じで研究したいんだけど、あなたの雑誌でチャンスはありますか?」と編集部に相談したりすることすらあるそう。そう考えると、NEJMの編集部はハーバード大の中にありますし、Lancetの編集部はエルゼビア社の中にあるので、地の利が相当ありますね。そして採択の是非を決めるのはあくまでeditorであると。一方③を相手にする場合は、editorは(面倒なので)reviewerの評価で採択の可否を決めるため、あまりeditorを意識する必要はないそうです。

というわけで、いい雑誌への採択の一番の近道は、自分の論文を買ってくれるeditorに向けて投稿することだそうです。当然研究/論文の質がある程度以上あることが大前提ですが、いい雑誌を目指すほど、その雑誌のeditorが何を求めているかを意識する、すなわちAim and Scopeは何か、近年どういう論文を採択しているかなどをよく調べることが重要になると。いい雑誌目指すのは大変…

まぁ私の場合は興味があるのが脊椎外科領域で、IFは最高でも5ないくらい(先述の基準でいえば③?扱い的には②か)なのであんまりeditorを意識する意味はないのかな。

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