二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:手術あれこれ > 胸腰仙椎

この論文どう解釈したらいいの?とお問合せを頂いたので読んでみます。以前読んだJBJSのRCTの著者であるドイツの神経外科Dengler氏が、RCTの前にされていた研究。ちょっと旧いですが2017Spine、Level of Evidenceは1の最高評価です。

Predictors of Outcome in Conservative and Minimally Invasive Surgical Management of Pain Originating From the Sacroiliac Joint

臨床疑問 :仙腸関節症治療予後不良因子の探索
研究デザイン :メタアナリシス(MA)
セッティング :研究1 米19施設(RCT)
 研究2 欧9施   (RCT)
 研究3 米26施設(単群)

P1 仙腸関節症(MIS固定:研究1-3で326人)
P2 仙腸関節症(保存加療:研究1-2で97人)
E 各リスク要因あり
C 各リスク要因なし
O1 経過良好、有害事象(創関連、再手術)
O2 経過良好
*仙腸関節症の定義は保存加療が無効(6M<)かつ仙腸関節ブロックで除痛効果
*使用器材はおそらくTriangular titanium implants
*解析は患者背景を固定効果、施設変数などを変量効果にした混合効果モデル
*モデルには年齢、罹患期間(四分位)、交互作用項も含める?

仙腸関節症は腰痛の15-30%(とくに固定術後は35-43%)と多く、保存的加療はもうひとつ。保存とMIS固定を比較した3つの前向き試験でMIS固定が優れていることが示唆されたものの、良いアウトカムと関連する因子の探索ができるほどのサンプルサイズではなかった。ので、3つの試験を統合して調べてみました!という研究。ここまではまぁよしとします。つづいて結果は割愛して、結論は「MIS固定は保存に優り、非喫煙・オピオイド非使用・高齢などでより効果が高い」と、研究疑問と関係ないことが結論に述べられています。

【批判的吟味】★
この研究には根本的な問題が多く、非常に残念です。ざっくりまとめると

・リスク因子の探索の臨床的意義がよくわからない
・研究仮説がない
・PECO各要素の定義があいまい
・とくにOは定義すらされていない
・研究目的と関係ない結果の報告
・リスク因子候補が明示されていない
・解析モデルが明示されていない
・MAなのに、組み入れ研究の質の評価がない
・MAなのに、網羅的検索が行われていない
・背景、方法、結果、結論に一貫性がない

誤解を恐れずに述べますと、この研究(目立つ研究いくつかつまんできて適当に足し算)が強力なエビデンスとして通用するのであれば、システマティック・レビュー(SR)という研究手法がそもそも不要、EBMなんて糞くらえ!ということになります。研究結果を統合する(既存のエビデンスを合わせてエビデンス総体に迫る)ためには、誤解を招かないように、気が遠くなるような厳格な、標準化された手順があるのです。他人の褌で相撲とるんだから、ちゃんとやらないと…この研究は、残念ながらエビデンスレベル1じゃなくて星1つです。

【コメント】
以下残念な研究に出会った際の、さる素晴らしい臨床研究家コメントの意訳

・「ごっこ」を批判せずより有意義なことをしろ
・「ごっこ」をする人に悪気はなく、やる気だけ
・「ごっこ」を許容する土壌が真の研究者を産む
・「ごっこ」に惑わされないのが読者の責任

ウーンその通り。実際Dengler氏はこの2年後にJBJSにRCT載せるなど、真摯に頑張られています(そのRCTの質はさておき)。ただ、脊椎領域のオピニオンリーダーであるSpineに「研究ごっこ」が載るのはやっぱり悲しい。多くの臨床家(読み手)は「Spineに載ってるから」と結果に惑わされるでしょう。こんな糞ブログですが、読み手の研究リテラシーを高めることに一役買えれることを願っています。そうかもね!とひびいてくれる人が少しでも増えれば...

最近たて続けにSpineに掲載された傾向スコア(PS)シリーズ第二弾を読みます。狭窄を伴う腰椎変性すべり(LSS+DS)に対して除圧術(片側進入両側除圧;ULBD)と除圧固定術の成績を比較した研究。テーマは非常に興味深いですが、永遠のテーマ的な...解決されたのでしょうか。

In Degenerative Spondylolisthesis, Unilateral Laminotomy for Bilateral Decompression Leads to Less Reoperations at 5 Years When Compared to Posterior Decompression With Instrumented Fusion

研究疑問  :LSS+DS手術においてULBDは除圧固定に優るか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:Kaiser Permanente Northern California (KPNC) healthcare system
*5施設レジストリ
*2007~2011のdataを使用

P ULBDもしくは除圧固定を施行したLSS+DS患者
E ULBD 164人
C 除圧固定 437人
O 主要:再手術(5Y) 副次:再手術法と高位、合併症(90D)、救急受診など
*対象の抽出にはICD-9-CMコードを使用
*まず「腰椎除圧」とその12M以上前に「LSS」「DS」コードがある例から、
 手術記録をみて罹患高位にULBDを施行している例をEとして抽出
*年齢、性、人種、喫煙からPSを算出
*E:C=1:3のPS最近傍マッチングでCを抽出
*Cはマッチング後に手術記録みて、該当しなければ再マッチ
*腫瘍、感染、ヘルニア、外傷、未成年、腰椎手術既往、前方手術などを除外
*研究期間内を通した保険資格がない例も除外
*ロジスティック回帰で交絡調整(詳細は不明)

従来DSに対する除圧は除圧固定より再手術が多いとされていたが、ULBDはもっと成績がいい可能性がある。これまで短期間の報告しかなかったので、5年followの成績を報告します!という研究。5年以内の再手術割合はULBD群 10.4% vs 固定群 17.2%と固定群に多く(P=0.045)、ULBDは安定したLSS+DSにいい選択かもしれない、前向き研究をしよう!という結論。

【批判的吟味】★★
この研究はちょっと厳しいです。まず標的集団(下図B)から「ULBDじゃない除圧をした患者」がごそっと抜けてしまっている。ULBDとそうじゃない除圧がランダムに選択されているなら問題はないですが、そんなわけはない。さらに微妙なマッチングで対象が限定され、研究集団(下図A)はもはやBを代表する集団とは考えられません。当然源泉集団(下図C)からもかけ離れるでしょう。

選択バイアスについて

C:源泉集団(Spine読者の目の前にいるLSS+DS患者)
B:標的集団(レジストリに登録された全LSS+DS患者)
A:研究集団(本研究におけるP)

また本研究においてPSを算出する際の統計モデルは「治療判断をする際の術者の頭の中」を数字化したものです。はたして術者は年齢、性、人種、喫煙の情報だけで手術の有無や術式の選択をしているのでしょうか?DSの重症度や骨密度、患者の「活き」や自身の得手不得手など様々な要因を考慮しているはずです。PSを使うためには未測定交絡がないという前提が(建前上)必要ですが、未測定交絡が多すぎる本研究でPSを使う意義は...

その他まだまだ問題(バイアス)が山積みですが、そんな中で得られた結果がギリギリ有意かつ効果量も小さい。ので本研究結果はバイアスをみているだけの可能性が大です。言い方は厳しいですが、「レセプトデータ」「PSマッチング」何かカッコいいからやってみよう!というだけの研究で、手元にあるデータを最大限活かす努力がなされていない。本件では、少なくともマッチングなんかせず全例調査は必須でしょう。

【コメント】
研究やる心意気には賞賛しかありません
が、誤解を招かないように真摯に研究しないと。どんな研究するのも、捏造しなければ個人の自由です。ただその研究に発信力をもたせるのはマズいでしょう。IF至上主義、電子化による論文自体の爆発的な増加、それに臨床研究リテラシーの普及が追い付いていない…問題は山積みですが、Spineは脊椎領域のリーダー的雑誌、敷居を下げずに格を維持してもらいたいです。この研究は載せちゃだめです…

最近Spineにたて続けに傾向スコア(PS)を使った論文が発表されています。実際自分で使ったことはないので、勉強がてら読んでみることに。椎弓根スクリュー挿入法に関するアメリカはスタンフォード大学の神経外科からの発表。

Conventional Versus Stereotactic Image-guided Pedicle Screw Placement During Posterior Lumbar Fusions

研究疑問  :ナビ下椎弓根スクリュー(これもPS)は従来法に優るか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:Thomson Reuters MarketScan Commercial Claims and Encounters and Medicare Supplemental and Coordination of Benefits databases
*9億人分のデータを格納
*期間は2007~2016

P1 単椎間除圧固定 1786人
P2 多椎間除圧固定 2060人
E ナビゲーション使用
C ナビゲーション非使用
O 入院期間、合併症、再入院、再手術、退院先、医療費
*前方、頚椎、腫瘍、脊柱変形、外傷のコードありおよび保険加入1年未満を除外
*並存症と椎体間固定の有無で?PSを算出
*EとCを1:1マッチング
*マッチングのキャリパーはPSのロジットの標準偏差の1.5%
*期間を2007~2011、2012~2016に区切ったサブ解析も施行
*解析は検定
*P1P2で2年毎のナビ使用トレンドも評価

PS挿入は重要な手技だが、0.6%~24.5%の合併症の報告がある。ナビゲ―ション下のPS挿入は精度の向上と被曝の低減が期待できるが、エビデンスが少ない。ので国家データベースを用いて調べてみました!という研究。合併症割合はP1でE群15.6% vs C群14%(P=1)、P2でE群16.6% vs C群23.7%(P=0.034)と多椎間ではナビ使用の方が合併症が少なく、ほかP2群ではE群の方が入院期間が長く、再入院割合が低いとの結果。また医療費はP1P2ともにE群の方が高かったとの結果で、ややこしい症例にはナビ使用の価値があるかもしれないよ、という結論。

【批判的吟味】★★★
現実的に介入試験が難しい手術手技に関する研究として、ビッグデータを用いて準実験デザインの観察研究を行うことは正当な手法(王道)だと思います。丁寧に施行されているし、limitation(以下参照)も厚く述べられているし、結論も控えめな点も好印象。

・再手術の定義が甘い
・症例の難度、手術侵襲を考慮していない(ナビ群に不利)
・ナビの種類を分類していない
・手術時間の情報がない
・レセプトデータなので誤分類が多い

ただし、PSを用いる前提条件である「未測定交絡がない」はどの程度満たされているでしょうか。まずPS算出にどういう変数を用いたかが明示されていないのでよくわかりません(付録でもいいので欲しい)。またTable 1.に示された情報がPS算出の材料だとすると、limitationで述べられている症例の難度のほかに、術者の技量や患者のアドヒアランス、骨質関連の情報などの重要な要因は入っていません。データソースの説明がないのでどういうデータが利用できるかがわかりませんが、かなりのビッグデータなので高次元PSの使用や、せめて服薬状況の調整はできなかったのでしょうか。

あと単椎間の除圧固定で合併症割合約15%ってのは多い気が。結果をそのまま日本に当てはめるのはちょっと微妙かもしれません(きっともっと低いはず!)。

【コメント】
とにかく9億人分のデータって半端ない。スタンフォ―ドだから使えるのか?公開されてたりしないんでしょうか。そんなわけないか…それだけボリュームあったら、いろんなことできちゃいますね。日本でこういう研究がやりたい人誰でもできるようになる日は来るのかなぁ...

本日は恐らく論文を読む時間がとれないので、朝イチ頑張ってみました。Spineで面白そうな論文を探しているととんでもないネタが... 

Delayed Penetration of the Thoracic Aorta by Pedicle Screws: A Case Report of Screws Left As-Is.

研究疑問  :動脈に刺さった椎弓根スクリュー(PS)抜けなくても何とかなるか?
研究デザイン:症例報告
セッティング:イスラエルの大学病院

P PSが大動脈に刺さった人 1人
E PS抜かず
C PS抜く(反事実)
O 生命予後

椎弓根スクリュー外すことはあるけど、大血管に刺さることは極めて稀。刺さると出血して大変なことになるか、背部痛の原因になる。いずれにしろ普通抜くけど、抜けないこともある。抜けなかった人がどうなったか知りたいでしょ!という研究。症例は以下のとおり。

症例 :65歳女性
既往 :高血圧、肥満
原疾患と手術 :T7/8化膿性脊椎炎で除圧固定(T5-10)
経過 :麻痺は残存し車いすADL、尿カテ留置。脊椎術後すぐ左膝人工関節も感染し下肢切断。3年後には右下肢も切断。脊椎創部の感染徴候はなかったけど、CRPはずっと陽性。経過観察中に左T6とT9のPSの位置がおかしいことに気付いたけど、CTではPS感染や誤挿入はなし。T7の後弯が進行した時に両PSが胸部大動脈を穿通。血管外科は全身状態的に手術はできないと判断し、そのまま抜かず。その後3年間無事だった。
考察 :PS抜いてステント入れても、術後ステント移動したら怖いし、大血管をクランプして刺さったPS抜くのは侵襲が高い。術者にも患者にも恐怖が残るけど、抜かないのも選択肢になり得る。

【批判的吟味】★★
どう紹介するか迷いましたが、一応PECOの形にしてみました。というか、後弯のせいで穿通ってどういうこと?X線では椎体に何か入ってるけど何?術直後の画像は?CTのAxiは?患者は3年経ってどうなったの?など欲しい情報がなく(意図的に隠され?)て非常にモヤモヤします。ホントに遅発性の穿通なら、PSが最初どういう位置だったかの情報は必須でしょう(明日は我が身、と自身の臨床に活かせるので)。あと一応症例報告のガイドラインであるCAREに照らし合わせた改善点としては

 ・Key word内に「case report」がない 
 ・既往の記載が乏しい(絶対もっとある)
 ・予後の情報が乏しい
 ・研究の強みと弱みに関する考察がない
 ・患者の同意に関する記載がない

といったところでしょうか。まぁ、兎に角インパクトで載った報告でしょうからあまり言うのもナンセンスでしょうけど。

【コメント】
せっかく公表するなら、もうちょっとちゃんとやって欲しかったです。非常にモヤモヤします。やっぱりなんだかんだ小一時間かかるなぁ。毎日1時間の確保は物理的に不可能なので、読んだ論文全部公表は無理だ...

丸太町病院の原田先生とご一緒する機会があり、自分も凡人なりに頑張らなければ!という刺激を頂きました。全てブログ上で紹介するのは難しいですが、「1日1論文」目を通すことをまず徹底しようと思います。今日はありがたいことに最近お手伝した研究にJSSR執筆依頼があり、その関連論文を。2018年にNeurosurgery(2018IF4.6)に載ったアメリカからのLLIF関連論文です。

Curve Laterality for Lateral Lumbar Interbody Fusion in Adult Scoliosis Surgery: The Concave Versus Convex Controversy

研究疑問  :凸側進入は凹側進入より合併症が少なく成績がよいか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:成人変性側弯(ADS)手術データベース

P LLIFを受けたADS患者(2年以上のfollow)63人
E 凸側進入 23人
C 凹側進入 40人
O 主要:総合併症   副次:ODI、腰/下肢痛VAS、脊柱パラメータ
*ADSは冠状面Cobb角(CCA)>20°、SVA>5cm、PI-LL>10°、PT>20°のいずれか
*後方固定は経皮的PS設置
*進入側は術者の恣意(椎間数、腸骨、大血管、骨棘、肋骨を考慮)

LLIFが普及しているが、特殊な合併症(腸管/大血管損傷;0.08~0.1%、大腿神経/神経根損傷;1~3%、股関節屈曲筋力低下;15~50%)に注意が必要で、進入側によって差がありそう。例えば凹側進入は皮切が小さく、頭側からL4/5までアプローチしやすい反面、回旋により椎体前方の操作が増え、骨棘で椎間に入りにくいためより危険を伴う。ただ凹側凸側どちらがいいかははっきりしていないので、今回データベース使って調べてみました!という論文。総合併症は凸側34.8% vs 凹側52.5%で有意差はつかず、その他のアウトカムにも有意差はつかなかった。ただL4/5プライマリカーブのサブグループをみると凸側 31.6% vs 63.3%で有意差がついたので、L4/5は凸側から入った方がよさそうとの結論。

【批判的吟味】★★★
ネタは興味深いし、丁寧な研究だと思います。ただし、どういうデータベースなのか(どういう施設からどうリクルートしたのか)の情報がないですし、脱落や欠測について触れられていないので、結果をどの程度真に受けていいか判断できません。対象が「2年followできた人」である点、すなわち2年以内に脱落した人が除外されている可能性があるのも問題です(重要人物:亡くなった人や、合併症のせいでコホート外に逃げちゃた人 が考慮されていないかも?)。おそらくアウトカム増やすためでしょうが、隣接障害、感染や手術合併症を一緒にしている点も結局何がみたいのかよくわかりません。あとMETHODSに解析方法くらいは書いて欲しかったです。

【コメント】
ぶっちゃけウリは多施設データというだけで、エビデンスの質としては微妙です。本研究で有意かどうか論じるのはどうでもよくて、全体的に凹側進入が何となく悪そうかなぁ!という探索的結果として、今後の研究のネタ元になる意義はないことはないか。でもTable1みても凹側の方がもともと悪そうだし何とも...ていうか、これでIF4.6の雑誌に載るのか…LLIFの研究早い者勝ちってこと!?悲しいかな地の利も大きそうだけど。ちなみに考察で「左右どっちでもいいなら、左進入がメインのOLIFでいいよね」的な記載に某M社の影を感じてしまうのは穿ちすぎか。

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