二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:胸腰仙椎あれこれ > 慢性腰痛(LBP)

EAからコクランレビュー(CDSR:2018IF7.8)の通知がきました。スタンダード版(付録なし)でも84Pもあって読むのが超絶大変ですが、専門領域のCDSRは避けては通れません。普段の腰痛外来にも役立ちそうですし、自分が参加しているCDSR用の備忘録も兼ねて(ポイントだけ)読んでみます。オーストラリアのPT科の先生からの発信。

Workplace interventions for increasing standing or walking for decreasing musculoskeletal symptoms in sedentary workers.

臨床疑問  :職場での立ち座り推奨はデスクワーカーの腰痛に効果あるか?
研究デザイン:Systematic Review
セッティング:全世界

P デスクワーカー
I 職場での運動を増やす介入
C 介入なし/標準的な介入
O 主要:疼痛の有無/程度、疼痛関連機能障害
  副次:仕事効率、欠勤、有害事象(静脈機能障害、周産期合併症)

方法のまとめ
・検索に用いるデータベースはCENTRAL、MEDLINE、Embase、OSH UPDATE、PEDro、ClinicalTrials.gov、WHO ICTRP
・先行研究の文献リストもcheckし、専門家にも他に文献ないか問い合わせ
・RCT、クラスターRCT(CRCT)、疑似RCT、質が高い前後比較試験(CBA)を包含
・2人の研究者が個別に検索、研究の抽出、データ抽出、バイアス評価を施行
・2人の研究者の結果を吟味し統一、介入の効果を統合(メタアナリシス:MA)
・アウトカム毎にMA結果の推奨度についてGRADEで評価

結果のまとめ
・10研究(RCT3、CRCT5、CBA2)955人を包含
・介入の内容は
 職場環境改善(立ち座りスペースやトレッドミルの提供)4研究
 個人への介入(仕事内容調整、歩数計、休憩時間の通知、階段使用の推奨など)2研究
 組織的介入(立ち会議、運動中のメールなど)研究なし
 複数介入の組み合わせ 5研究

・結果の詳細とエビデンスの質は以下のとおり
 (SMD/MDは負の結果で効果あり、RRは1未満で効果あり)
 職場環境改善(短期効果≤6M)
  腰痛     SMD -0.35 (-0.8, 0.1) 2RCT Low
  背部痛    SMD -0.48 (-0.96, 0.0) 2RCT Low 
  疼痛関連障害    MD -0.4 (-2.7, 1.9) 1RCT Low
 個人への介入 (短期効果)
  腰痛     SMD -0.05 (-0.87, 0.77) 2RCT Low
  背部痛    SMD -0.04 (-0.92, 0.84) 2RCT Low 
  頸部痛    SMD -0.05 (-0.68, 0.78) 2RCT Low
  肩痛     SMD -0.14 (-0.63, 0.90) 2RCT Low
  上肢痛    SMD -0.30 (-0.63, 0.90) 2RCT Low
 組織への介入
  研究なし
 複数介入の組み合わせ(短期効果)
  腰痛     RR 0.93 (0.69, 1.27) 3RCT Low
  頸部痛    RR 1.00 (0.76, 1.32) 3RCT Low
  肩痛     RR 0.83 (0.12, 5.80) 2RCT very Low
  背部痛    RR 0.88 (0.76, 1.32) 3RCT Low 
 複数介入の組み合わせ(中期効果:6M<, ≤12M)
  腰痛     MD -0.40 (-1.95, 1.15) 1RCT Low
  背部痛    MD -0.70 (-2.12, 0.72) 1RCT Low
  下肢痛    MD -0.80 (-2.49, 0.89) 1RCT Low 
  疼痛関連障害 MD -8.80 (-17.46, -0.14) 1RCT Low
 複数介入の組み合わせ(長期効果:12M<)
  腰痛     RR 0.89 (0.57, 1.40) 2RCT Low
  頸部痛    RR 0.67 (0.41, 1.08) 2RCT Low
  背部痛    RR 0.52 (0.08, 3.29) 2RCT Low 

結論
・利用可能なエビデンスは限られていて、職場で立ち座りを増やす介入が筋骨格系の症状を減らすとの結果は短期、中期、長期いずれも示されなかった。
・エビデンスの質はLow~very Lowだった。
・有意ではなかったが、いくつか効果を示唆する結果もみられた。
・なので、大きなCRCTをする必要がある。

【批判的吟味】★★★★★
研究の質については言うことはありません。経験者を仲間に入れてちゃんと応募しないとCDSRは登録できませんし、登録後はレビューグループの援助下に進めますので、質が担保されたものしか発信されません。必要な情報はひな型に沿った小見出しでよく整理してまとめられています(全部読むと1日かかります)。JAMAでもBMJでもSRは全部このCDSRに手法に準じています。

【コメント】
まぁガチでSRすると殆ど「エビデンスが足りない」「結論は出せない」になってしまうのですが、実際質が高いRCTするのは至難の業どころではありません。ちょっと評価が厳しすぎる気もしますが、でも甘くする意味もないし…EBMに固執すると臨床なんてできないし、でも己の信念だけで医療するのも独りよがりになっちゃうし…EBMと臨床経験のバランスとるのも至難の業だなぁなんて思う今日この頃。怪しい研究は効果を謳って、ガチの研究は結論でない。ヒトを対象とした研究はホントジレンマです。あ、そういえばCDSR日本語訳ボランティアにそのまま使えるな!

仕事が遅いのでヒイヒイ言いながら博士後期課程の研究デザインを進めており、現在主要アウトカム尺度をSF-36にするのか、より特異的なRMDQにするのか悩んでいます。日本人なのでJOABPEQも無視できないし~など思案していたら、RMDQを主要アウトカムにしたEA星5つのRCTがBMJ様から。トップジャーナルに脊椎関連論文でたら、勉強がてら読まない手はないでしょう。てかModic change(MC)に抗生剤って一体どういう研究なんだろう...

Efficacy of antibiotic treatment in patients with chronic low back pain and Modic changes (the AIM study): double blind, randomised, placebo controlled, multicentre trial

研究疑問  :抗生剤は椎間板ヘルニア(LDH)後のMCを伴う慢性腰痛に
       効果があるか?
研究デザイン:RCT
セッティング:ノルウェー6病院

P LDH後にMC(Ⅰ/Ⅱ)を伴う慢性腰痛患者180人
I  アモキシシリン(250×3/日)
C ブラセボ
O 主要:開始1年後のRMDQ
   副次:ODI、腰痛/下肢痛NRS、EQ-5D、有害事象
*慢性腰痛の定義は6ヶ月以上持続し、NRS≥5
*ヘルニア手術後1年以内、1ヶ月以内の抗生剤使用は除外
*MCと手術で4層のブロックランダム割付
*主解析対象はITT集団
*共分散分析でベースラインRMDQ値、MCタイプ、手術の有無を調整
*RMDQ欠測は多重補完
*MICD=4でサンプルサイズ計算
*中間解析でRMDQ差7以上になれば試験終了の計画
*Bang blinding index(実際の割付結果と参加者の予想の一致)も施行
*統計家がRで、院生がSTATAで独自に解析し結果を比較

腰痛の治療は大変で、現在研究者たちは治療効果が期待できる腰痛のサブ集団を特定しようと頑張っている。中でも以前から注目されているのはMCであり、一部に細菌の関与が指摘されている。MCがある腰痛に抗生剤が効果的であることを示したRCTが1つあるが(RMDQで8.3の差)、色々問題あり、治療としては推奨されないままである。そこでキチンとやりなおしてみました!という論文。1年でのRMDQ差は-1.6(-3.1, 0.0)となり、副次解析や感度解析の結果も同様で本研究をもってアモキシシリンの使用を支持することはできないとの結論。

【批判的吟味】★★★★★
プロトコル論文が出版されていたり、思いつく準備が全てなされている質が高いRCTだと思います。さすがBMJ様...生物統計家など、複数の研究者でチーム作らないとできない研究ですね。考察も
 Principal findings
 Comparison with the previous study
 Clinical relevance
 Limitations and generalisability
 Balancing the trial findings
 Conclusions and policy implications
の小見出しでよく構成されており、非常に読みやすいです。RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 Low risk
5. 選択的な報告 Low risk

と、RCTとしての質は言うことないです。いつか自分でRCTもしてみたいので、是非お手本にします。著者に直接メールしてみようかな。プロトコル論文も読まなければ...

【コメント】
ここまですればBMJは載せてくれるんでしょうけど、相当大変...現実的な目標はちょっと端折ってJBJS狙いかなぁ(最近rejectされましたけど涙)。ちなみにアブストにintroがない。BMJ全部そうなんかな?質は非常に高い論文ですが、EA評価が高くないのは結果が負けているからか。

たまにはSpineを読まないと!ということで、今回はタイトル重視で選んでみました。PTSDと慢性腰痛の関連っていったい何をどう調べたんでしょうか。

Post-traumatic Stress Disorder Symptoms are Associated With Incident Chronic Back Pain: A Longitudinal Twin Study of Older Male Veterans.

研究疑問  :PTSDは将来の慢性腰痛と関連するか?
研究デザイン:前向きコホート研究
セッティング:ベトナム戦争退役軍人双子レジストリ
*男性7000対(いずれも従軍)

P 腰痛のない男性一卵性双生児171対
(一方がPTSDあり、他方がPTSDなし)
E PTSDあり
C PTSDなし
O 5年後に慢性腰背部痛あり
*慢性=3ヶ月以上持続
*一般化線形モデルを用いリスク比を算出
*二変量モデルに加えると10%以上効果の指標がかわる変数を交絡因子と同定
(結果交絡因子になったのは機能障害のみ)

心理的要素(例えばうつ)と腰痛の関連は多く報告されているが、独立した関連というより遺伝的素因に交絡された関連である。PTSDと腰痛の関連を調べた研究はないが、まず遺伝的素因を介して関連はするはず。ただ遺伝的素因を調整しても関連がみられれば面白いので、調べてみました!という研究。5年後に83対の双子が追跡でき、PTSDありの慢性腰痛発生の粗リスク比は1.6 (1.2, 2.1)、調整リスク比は1.5 (1.2, 2.0)で、PTSDがあると将来腰痛もちになりやすいよ!との結論。

【批判的吟味】★★★
年齢、性別、遺伝子が等しい集団を比較するというすごい研究。ただ対象が「ベトナム戦争参加者」ですし、要因が「戦争関連のPTSD」という一般社会(とくに日本)とはかけ離れたセッティングなので、どれだけ外的妥当性がある?と言うのはちょっと野暮か。内容的にはデータから変数選択を行うやり方はちょっと微妙ですし(交絡因子候補も明示されていない)、「83対の異なる遺伝子」を考慮するには、単純な一般化線形モデルより適切なモデルがありそうな気がします。半数以上が脱落していますし、リスク比は所詮1.5程度なのでそんなに強い結果とは言えないでしょう。そもそも「慢性腰背部痛の有無」を測定する方法も明示されていないのはちょっと緩いです。

【コメント】
一卵性双生児7000人のレジストリとか、やっぱアメリカ半端ない...

慢性腰痛はcommon diseaseでありながら、未だにわからないことだらけです。慢性腰痛について検討したアメリカ発の論文がSpine最新号にでていましたので紹介。

The Relationship Between Endplate Pathology and Patient-reported Symptoms for Chronic Low Back Pain Depends on Lumbar Paraspinal Muscle Quality.

研究疑問  :終板損傷による腰痛は、傍脊柱筋(PSM)変性の影響を受けるか
研究デザイン:横断研究
セッティング:カリフォルニアの1病院?

P 成人52人(18歳~70歳、BMI<40)
E1 PSM変性大+終板損傷あり
C1 PSM変性小+終板損傷あり
C2 PSM変性小+終板損傷なし
O 慢性腰痛
*Pは38人の慢性腰痛患者と、年齢と性別をマッチさせた14人の対照群
*DM、喫煙、担癌、種々腰椎疾患、骨粗鬆症治療などは除外
*PSM変性は多裂筋の脂肪変性度として定量(IDEAL法で測定)
*終板損傷の有無は軟骨性終板の有無で定義(UTE法で評価)
*慢性腰痛ありは3ヶ月以上持続し、VAS≥4もしくはODI≥30と定義
*慢性腰痛なしは腰痛既往なく、VAS≤1と定義

モディック変性や傍脊柱筋力と慢性腰痛の関連が示唆されるものの、先行研究の結果は一貫していない。これは交互作用を考慮していないからだろう。終板損傷による慢性腰痛の程度にはPSM変性が影響する(量的交互作用がある)気がするので検証してみました!という論文。結果は終板損傷ありの慢性腰痛におけるオッズ比は26.1と非常に高く(モディック変性と椎間板変性度で調整)、L4/5高位の終板損傷に注目すると、PSM変性大だとオッズ比17.3と強い関連がある一方、PSM変性小だとオッズ比2.7と関連が弱かったというもので、終板損傷とPSM変性には交互作用があり、終板損傷があってもPSMに対する介入は効果があるだろうという結論。

【批判的吟味】★★
慢性腰痛について研究しようという心意気には賞賛しかありません。ただ科学論文として構造化されていないため、正直読むのが疲れ、まとめるのが困難(何度断念しようと思ったか…)。申し訳ないけど時間がもったいないので考察は読みません。内容も細かなところはさておき

・Pから1<VAS<4の対象が抜かれているため、源泉集団がイメージできない
・そもそも仮説(交互作用)を検証する構造になっていない
・Resultsの殆どがMethods にない解析
・明らかにP値探検隊(P値が出るまで検定しまくり)
・ロジックに一貫性がなく、結語も飛躍し過ぎ

などなど、残念ながら悪い見本のような論文。Level of Evidenceは4と低く、結果もどう臨床に活かせばいいかわからないので、ミスリーディングの悪影響は少なそう。重要なテーマだし★★にしましたが、兎に角疲れました。

【コメント】
研究者自身がよくわからないまま書いていて、査読者は煙にまかれた状態で何となくOKしてしまった感が否めません。これもある意味論文通す一つのスキームになるんでしょうか。ただどうせやるならエビデンス総体に少しでも貢献する研究を...

今回はそろそろThe Spine Journalに手を広げてみようと思います。Spine専門誌ではIFが最高(3.2)で、NASSの機関紙です。2019年6月号、カナダの脊椎外科から。

Effect of spinal decompression on back pain in lumbar spinal stenosis: a Canadian Spine Outcomes Research Network (CSORN) study

研究疑問  :①LSS手術は腰痛にも効果があるか?
       ②術後腰痛改善と関連する因子は?
研究デザイン:①記述研究
       ②過去起点コホート
セッティング:カナダの多施設

研究①
P LSS手術患者(1221人)
O 主要:腰痛NRSでMCID達成
  副次:ODI、EQ5D、SF-12(PCS、MCS)

研究②
P LSS手術患者
E 各因子あり
C 各因子なし
O 腰痛NRSでMCID達成(3、12、24M)

*主要エンドポイントに指定はなし
*NRSのMCIDは2点
*各因子とは大卒、労災や事故ではないこと、術前麻薬系鎮痛剤の不使用、健康度、ODI、EQ5D、手術椎間数、MISt、手術時間、固定の有無、入院期間、合併症など

LSS手術は下肢症状に効果があることはわかっているものの、腰痛に効果があるかはわかっていないので調べてみました、また、手術による腰痛改善と関連する因子を探索してみました、という2段構えの論文。結果MCID達成割合は3Mで74%、12Mで68%、24Mで68%で、また腰痛改善と関連する因子は「労災や事故ではないこと」、「術前麻薬系鎮痛剤の不使用」および「腰痛の程度が強いこと」という結果で、多数に腰痛の改善がみられ、2年くらいは維持できそうという結論。

【批判的吟味】★★
すごく興味深い臨床疑問だったので読んでみましたが、研究の質としてはちょっと厳しいです。まず腰痛をどう測定定義したかの情報がないのが致命的。いったい本研究で改善した腰痛とはどういうものだったのか?それがわからないと結果を解釈できません。また、比較対照群もない。ただでさえ観察研究で手術の効果をみるのは困難なのに、対照群がないのはもはや「雨降り3た論法」です。研究②のほうも、多変量解析に投入したモデルの定義と測定方法、選択基準などが全く示されておらず、とにかく手元にあるデータをソフトにぶちこんで、返ってきた数値を記述しただけという数字遊び的なもの。残念ながら次につながる知見は何も得られません。

【コメント】
脊椎外科医は、とくに腰痛が「手術したけど良くならない」患者と向き合い、お互い辛い思いをする経験が少なからずあると思います。つかみどころのない「腰痛」に関する研究は非常に切実なので、良いエビデンスの登場に期待です。てかまたディスることになってしまった...臨床疑問が切実な論文を中心に読んでいるので、臨床疑問が切実だから載った(けど研究の質は残念)な論文が多いのかなぁ…

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