二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:手術あれこれ > 周術期管理・感染

5月最終日、つかの間の休息のうちにもう1本読んでおきます。たまってきたEAから臨床の役に立ちそうな論文を。Spineに載るSystematic review:SRにはあまりいい記憶がないのですが、ネタが面白そう!結局結論はでたのでしょうか。

Spinal Fusion Surgery and Local Antibiotic Administration: A Systematic Review on Key Points From Preclinical and Clinical Data

臨床疑問  :固定術中の抗生剤局所投与はSSIの予防に効果あるか?
研究デザイン:Systematic Review?
セッティング:全世界

P 脊椎固定術
I 抗生剤の局所投与
C Iなし
O SSIの発生
*Pubmed、Scopus、Webofknowredgeでkey word検索
 - on going研究も3つのレジストリで検索
*RCTも非RCTも全て包含
*Risk of biasはROBINS-Ⅰで評価

脊椎術後SSIは除圧のみで0.7‐2.3%、固定で6.7%と結構高頻度で困る。予防に創内投与が注目されているので、ここ10年の文献を検索しました!という研究。結果は…

・43研究を包含
 - 36は臨床研究、7は基礎研究
 - On goingが6研究

で、結論はバンコマイシン局所投与は効果がありそうだけど、エビデンスの質は高くないのでよくわからないというもの…もう時間がもったいな〇ので本文を細かく読むのはやめますが、抄録がすでに全然抄録じゃない…

【批判的吟味】★★
Spineでのエビデンスレベルは4と低くはされていますが、Titleとか本文に「A systematic Review」と書くのはちょっと詐〇的…何が残念かまとめますと

・ただ文献検索して、文献の一覧表作っただけ
 - Key word検索のみ(網羅的検索していない)
 - SRのレジストリ登録していない
 - メタアナリシス:MAは?
・各々の研究のROB評価結果は?
 - ちなみにRCTのROB評価はROBINS-ⅠではなくRoB2
・PRISMAに準じているとか言ったらダメ

PICO書いたり、丁寧な構成になってはいる印象ですが、やっていることはただ文献検索して一覧にしただけ…これで英語圏の発信ならホント詐欺ですが、イタリア発?なんで頑張って英語書いた努力は賞賛してもいいかもしれません。いや、でも…せめて結果は読みやすくまとめて欲しかったです。

【コメント】
エビデンス評価下げたとしても、これでSRという表記許すのは、S〇ine…手術しなきゃいけない外科医がいい研究するのは正直大変だとは思いますが、いくらなんでも文献検索して一覧にしただけの論文をSRとして載せるのはいくらなんでも…これでいいなら臨床しながらでも月1本載せれるなぁ…実績作るのはそれが一番早のかも…でもいくらなんでも…

とぜん先生が武漢からの衝撃的な論文を紹介されていたので、読んでみます。中国発論文は玉石混合(石多め)なので注意して解釈しないといけませんが、第一線からの報告に真摯に耳を傾け、臨床に活かさなければ。EClinicalMedicineという、Lancet系の由緒正しそうな雑誌(2018創刊でIFはなし)。

Clinical characteristics and outcomes of patients undergoing surgeries during the incubation period of COVID-19 infection.

研究疑問  :術後にCOVID-19を発症した場合の死亡リスクは?
研究デザイン:ケースシリーズ
セッティング:武漢4病院

P 待機手術後にCOVID-19を発症して新型コロナ感染が判明した34人
O  COVID-19発生、呼吸不全、死亡までの期間など
*術後に感染者と濃厚接触した3人を除外
 - 感染が術前か術後か判断できないので
*対象は2020.1.1~2.5の手術
*COVID-19の定義はARDS、心筋障害、腎障害、ICU入院
*手術Level(1-4;高い程高リスク)で層別

COVID-19は武漢から急速に世界中に蔓延してしまった。その潜伏期間中に意図せず行ってしまった待機手術の成績について報告します、という研究。主要な結果は以下のとおり。*期間はすべて中央値(四分位範囲)

・Level 1-4はそれぞれ 1人、11人、20人、2人
・術後合併症はARDS 11人、ショック 10人、二次感染 10人、不整脈 8人、心筋障害5人、腎障害2人
・L3手術の7人(20.6%)が死亡 (34歳~83歳)
・入院から手術までは 2.5 (1, 4)
術後からCOVID-19発症までは 2 (1, 4)
COVID-19から呼吸不全までは 3.5 (2, 5.3)
入院から死亡までは 16 (11, 25)

  よって、新型コロナ感染者に手術するのは危険かもとのメッセージ。

【批判的吟味】★★★
非常に重要な知見だと思います。ただ、研究対象は「術後にCOVID-19を発症した患者」であり、「新型コロナ感染下に手術を受けた患者」全体ではありません。COVID-19発症という未来を術前に知ることはできないので、我々が本当に知りたい情報は「新型コロナに感染(無症候)の人に手術しちゃったらどうなるか」です。そこを想像するためには、同時期に待機手術をした全員の情報(手術数だけでも)、そのうち想像できる感染者の割合、当時どういう「症候」にPCRをする方針だったか、待機手術でPCRをした割合、そのうち新型コロナ陽性になった割合、などの情報が欲しいところ。

また、手術のせいで死亡が増えたか(加速したか)?を調べるには、「似た特徴もち、手術を受けていないCOVID-19発症者との比較」が欠かせません。死亡20%は驚愕の数字ですが、手術なしでCOVID-19を発症したらどの程度死亡するか?を念頭に冷静に解釈する必要があります。そして、本研究でのCOVID-19の定義は厳しめである(だるさや軽い感冒症状だけは入らない)ことにも要注意。

ラッシュな経過であることは事実で、手術侵襲が経過を悪化させたのは間違いないでしょう。警笛を鳴らすには大げさなくらいの結果でいいと私も思います。ただ治療者には、手術を延期することで本来の病勢が悪化するというマイナス面と天秤にかけることが求められます。コロナ陽性なら手術中止に異論ある人はいないでしょうが、コロナ感染リスクが高くない人にはどうするか…そのあたり、JOAの指針は理に適ってます。

【コメント】
まぁ、COVID-19は当初思っていたより大分こわい!というのが正直な感想。まさかここまでの事態になるとは...そして、身辺に間違いなく迫ってきている。できる努力をしつつ、粛々と医療を続けるしかありませんが…

日常臨床に加え、年度末になり色々タスクが押し寄せて論文通読ができておらず。一念発起してSpineの論文を読みます。術者は全員気になるであろう、「周術期脳梗塞」に迫った論文です。これまで自身の執刀以外もふくめ4000件ほど手術に関わって、術中発症経験はなく、術後に2例だけでしたが、実際のところどうなんでしょうか?

Intraoperative Ischemic Stroke in Elective Spine Surgery: A Retrospective Study of Incidence and Risk.

研究疑問  :脊椎手術の術中脳梗塞の発生割合、予後、リスク因子の記述
研究デザイン:症例報告
セッティング:Swedish Neuroscience Institute←だけどUSA?

P 脊椎術後に脳梗塞を発症した7人
E 各リスク因子あり
C  なし
O  脳梗塞発生
*出血性梗塞、外傷/感染/腫瘍手術は除外
*リスク因子候補は方法の項で明示されず(BMI、ASA、HbA1cなど?)
*恐らく著者らがカルテレビューし情報収集

脊椎手術周術期の脳梗塞は0.4%ほど発生するとされるが、出血や、心臓手術後の脳梗塞ほどその発生割合やリスク因子はわかっていない。ので調べてみました!という研究。結果は

・5029人中虚血性脳梗塞の発生は7人(0.15%)
・女性が6/7人
・梗塞部位は橋2人、尾状核1人、PICA1人、外包1人、MCA1人、テント上1人
・リスク因子は高血圧、DM、喫煙、高コレステロール、術中硬膜損傷
・予後は2人は入院中に全快、3人 は入院中は症状残存、2人は死亡

で、術前にはリスク因子を評価して、持っている人は注意すべき、術中脳梗塞は予後悪いですよ!との結論。

【批判的吟味】★★
てっきり5029人のデータ使った観察研究かと思ったら、実際はアウトカム発生した7例の症例報告でした。まぁそれはいいとして、まず7/5029=0.00139で数字が違う…(多分計算に使用した分母は別)。出血性梗塞はアウトカムから除外すべきではないし(もしかして分母からも除外?)、「梗塞部位」が責任血管だったり、局在だったり統一されてない。リスク因子候補や特定法は方法に書かれていないし、恐らく単純に%計算して恣意的に選択しているだけ。解析法の項には「外部の独立した統計家が解析」とだけありますが、結果をみても統計家の出番はなさそうです。アウトカム発生した6/7人に硬膜損傷があったというのは興味深い結果ではありますが、その他既存のエビデンスに付加する結果は残念ながらありません。症例報告なら、より詳細なdataの提示が欲しかったです。術中なのか周術期なのかもずっと曖昧だし…

【コメント】
自分ごときが批判的なコメントするのは心苦しいのですが、害はないけど、益もないというか…So What?というか…治療成績を見直すのは崇高な作業ですが、発信するなら「調べてから結果を探す」のではなく、「検証するために調べる」じゃないと研究としての芯に欠けます。Spineはネタのimpactのみ、もしくは運で載るのか?と穿ちたくなる、もの寂しい研究でした。まさか5000例のコホート!だから採用、という判断じゃないよね…

院内での周術期管理を統一する際に、術前にバイアスピリンを休薬すべきか?が議論になりました。のでエビデンスを渉猟してみることに。検索式は割愛しますが、Core Clinical Journal+Spine+Spine Jで役立ちそうな論文をPick upします。今回はエビデンスの質はさておき、結果のまとめだけ。

①とりあえずCochrane(2018IF7.8 )2018年がありました!これで解決か?
Continuation versus discontinuation of antiplatelet therapy for bleeding and ischaemic events in adults undergoing non-cardiac surgery.

研究疑問 :非心血管手術において、抗血小板剤は休薬すべきか?
研究の型 :Systematic Review
包含研究 :2018.1月までのRCTを検索
 腹部、泌尿器、整形、婦人科手術を対象
 5試験(3試験はon going)666人をレビュー
 休薬は術前5日間
主な結果 :休薬群を比較対照とした継続群の効果(人数は/1000人)
 30日死亡 RR 1.21 (0.34, 4.27)、+3人 (-9, +40)    
 輸血 RR 1.37 (0.83, 2.26)、+42人 (-19, +119)
 追加手術 RR 1.54 (0.31, 7.58)、+6人 (-7, +71)
 30日梗塞 RR 0.67 (0.25, 1.77)、-17人 (-39, +40) 
結論 :死亡、追加手術、梗塞は低エビデンスのレビューで差なし
 輸血は中レベルのレビューで差なし
 研究数がまだ不足しており、on going3研究の結果が待たれる

②凋落はげしいMedicine(2018年IF1.9)2018年の論文
Safety of continuing aspirin therapy during spinal surgery: A systematic review and meta-analysis.

 研究疑問 :脊椎手術において抗血小板剤を継続してもいいか?
研究の型 :Systematic Review?
包含研究 :観察研究含んで?4研究を包含
主な結果 休薬群を比較対照とした継続群の効果?
 出血量 -56ml (-112, -1)    
 手術時間 -19分 (-33, -4)
 輸血量  0ml (0, 0) ←効果の指標が滅茶苦茶
 心筋梗塞 OR 1.56 (0.1, 25.7)
結論 :アスピリンを継続しても出血、手術時間や輸血量は増えない 
 ←解釈も滅茶苦茶、やはり非常に怪しい論文...

③Spine J(2018IF3.2)2017年にも同じ疑問を扱ったレビューが(そんなのあり!?)
Risk of aspirin continuation in spinal surgery: a systematic review and meta-analysis.

 研究疑問 :脊椎手術において抗血小板剤を継続してもいいか?
研究の型 :Systematic Review?
包含研究 :3ケースシリーズを包含
主な結果 :手術時間 継続群 202 分 (193, 210) vs 休薬群 178分 (119, 238)
 出血量 継続群 554ml (468, 640) vs 休薬群 539ml (428, 650) 
 心筋梗塞、脳梗塞、創部感染にも差なし
結論 :本研究結果では差がでなかったが、エビデンスは不足

我々が知りたいのは抗血小板剤/抗凝固剤を継続した場合どの程度血腫のリスクがあるかと、休薬した場合どの程度梗塞のリスクがあるかです。脊椎手術では血腫=神経障害になり血腫の深刻さが全然異なるので、研究①のように他の手術と一緒にすることはできません。研究②は論外ですし、研究③からも知見は得られない。この疑問について決定的なエビデンスはないのでしょうか…

そもそもアウトカム(血腫や梗塞)は発生が極めて少なくRCTは非現実的ですし、数施設の観察研究では検証できません。解決するには国家規模のレジストリ研究か、(研究リテラシーがある)多施設でクラスター解析するしかないでしょう。おそらく施設レベルでは血腫できたら休薬、梗塞できたら継続と方針かえるでしょうから、学会レベルで各施設の方針をアンケート調査して結論だすのも意外と真実に迫れるかも。バックグラウンドが脳外科か整形外科かで違いをみるのも面白そう。

とりあえず科内のルールは「専門家パネル」で決めるしかないですね。ちなみに抗凝固剤はどうしたらいいんだろう…

先日長崎大学にお邪魔して大変勉強になりました。その際に「イソジンでの創内洗浄は良さそうだよ!」と教えていただいたところ、丁度Spineにも関連論文が載ったようです。過去にハシリの論文であるイソジン創内洗浄の効果をみたRCTは読みましたが、どう発展したのでしょうか。

Reducing Surgical Site Infections in Spine Tumor Surgery: A Comparison of Three Methods.

研究疑問  :①イソジン洗浄+VCM散布は脊椎腫瘍手術SSI予防に効果的か?
 ②脊椎腫瘍手術SSI発生のリスク因子の探索
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:米ロチェスター大学

P 2003年~2018年に脊椎腫瘍の手術を受けた151人(174手術)
E1 イソジン洗浄+VCM創内散布 60人
E2 VCM創内散布のみ 46人
C いずれもせず 45人
O SSI発生
*変数は年、性、人種、BMI、Alb、組織、放射線、局在、術式、出血、除圧法
*術前後にCEP(アレルギーあればCLDM or VCM)投与
*イソジンは生食で希釈して0.3%に
*VCM粉は頚椎後方は0.5g、前方は0.1g、ほか後方は1-2g使用
*要因探索にはステップワイズ法を使用

脊椎腫瘍手術におけるSSI発生は4.9~30%と言われている。SSIを減らすにはイソジン洗浄や創内VCM散布がいいとされるが、脊椎腫瘍手術に絞ったエビデンスはない。ので調べてみました!という論文。結果は

・全体のSSI発生は15人 (9.9%)、15手術 (8.6%)
・各群のSSI発生はE1群2手術 (2.7%)、E2群6手術 (12.8%)、C群7手術 (13%)でP=0.04
・SSI発生あり/なしの群間では術前放射線治療に差あり(P=0.02)
・ほかBMIがリスク因子として抽出された

で、イソジン洗浄+VCM散布は効果的との結論。

【批判的吟味】★★
非常に興味深いネタなのですが、既存ののRCTにadd onできるデザインではないのが残念。せめてもうちょっと「メタの手術」に焦点を当てる重要性に触れて欲しかったです。解析が2×3表の単なる検定なのは弱すぎですし、イソジンのみ群がないのも行き当たりばったり感が否めません(仮説ありきの研究じゃなく、データからP値探検隊した雰囲気も...単位が人なのか手術なのか曖昧ですし)。少なくともこの研究でVCM散布の効果を匂わせる結論の書き方はまずいですし。もっとも重大な適応交絡や、15年間での治療の変遷などにも触れられていないですし、結果を鵜呑みにはできません。取ってつけたようなステップワイズもマイナスにしかならない気が…

【コメント】
ネタとしては重要ですし、この研究がSpineに載るならもうちゃんとしたRCTするしかないです!感染ホント嫌ですもんね。元来合併症など発生が少ないアウトカムにRCTは適しませんが、前例もあるし本研究のように対象絞れば200例ちょっとでできる計算。弱小民間施設で実験じみた事するのはいろいろな意味で敷居が高いですが...

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