二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ: 疾患別エビデンス

昨年までは忙しさにかこつけて脊椎領域の最新論文をあまり読んでいなかったのですが、トレンドについていくためにも頑張ろうと心を新にしました。以前のスタイルだと大変なので、読み込んで勉強する場合以外はできるだけサラッと、指摘も少な目でいこうと思います。早速JBJS(2021IF6.6)に載ったカリフォルニアの整形外科先生からの、椎体形成術と二次骨折に関する論文を。

Secondary Fracture Rate After Vertebral Osteoporotic Compression Fracture Is Decreased by Anti-Osteoporotic Medication but Not Increased by Cement Augmentation

研究疑問  :1)椎体形成は二次骨折を増やす?
       2)骨粗治療は二次骨折を減らす?
       3)椎体骨折後の骨粗治療割合は?
研究デザイン:データベース研究
セッティング:PealDriver database
*2015年~2019年、購入可能

P 椎体骨折患者 
I 疑問1)Kyphoplasty (KP) / Vertebroplasty (VP)
疑問2)骨粗鬆症治療あり
C なし
O 二次骨折

椎体形成術と二次骨折を増やすか?の結論は出ていないし、いずれにしろどう予防すればいいかがわからないので調べてみました!という論文。

【方法の概要】
50歳以下、腫瘍・感染・固定併用を除外
・二次骨折は隣接かどうか、発生時期は問わない
・「骨粗鬆症治療」は骨折1年以内の処方があるか
・以下をロジスティックモデルに入れて解析
 - BKP、VP、骨粗鬆症薬、年齢、性、ECI
 - オッズ比が1を超えるか?関連の有無を判定
*ECI:Elixhauser Comrbidity Index

【結果と結論】
・登録されたのは36145例
・保存 71.7%(うち86%がKP)、手術 28.3%
・二次骨折は保存 21.8% vs KP 18.5% vs VP 14.5%
・骨粗鬆症治療ありは7.8%
 - 二次骨折は治療あり 10.1% vs 治療なし 21.9%

で、1)椎体形成術は二次骨折を増やさない2)骨粗鬆症治療は二次骨折の予防になる、3)にもかかわらずほとんど骨粗鬆症治療されていないのはどういうこと!?という結論。

【批判的吟味】★★★
驚異的なN数の、無視できない研究です。シンプルで内容もわかりやすい。しかし方法論的にはいくつか気になる点があります。まずPealDriver databaseの説明がないので、研究対象がどの程度実臨床を反映しているか、どの程度データが信頼できるかがわかりません。それより根本的なのが、二次骨折も大事ですけど、隣接骨折(とくに術後早期に発生)がもっと大事じゃないかということです。椎体形成術と因果的な関連があるのは隣接かつ術後ある程度の期間内に発生した骨折でしょう。なので非隣接も含めた二次骨折全体と椎体形成術との因果を論じるのは妥当じゃないです。もともと骨折リスクが高い集団なので両群に非隣接骨折がたくさん発生しますし、期間も限定していないのでなおさら結果がぼやけます。2)に関しては、骨粗鬆症治療が二次骨折の予防になるのはわかりきったことなので、この緩い手法で検証する意義がわかりません。意義があるのは「いつ、どの程度の期間使用すれば予防効果があるか?」「どの程度の予防効果があるか?」といったより細かな疑問の検証だと思います。また、データベース研究なのでやむを得ませんが適応交絡の調整が不十分だと思います。これだけNがあるし、高次元傾向スコアなどもっといい手法ができたでしょうから勿体ない。多変量解析をMultivariateと書いたり、解析含めてちょっと方法論的に脆弱ですし、上記の弱点が一切limitationに書かれていないのは大分寂しいです。

【コメント】
とはいえ、単一疾患でこれだけの数を解析できるのは流石アメリカ…いくらで買えるんでしょうか。気合入れてデザインして触ってみたい…研究自体は甚大なNと、編集部の意向に沿った内容、アメリカ発というだけでJBJSに載った感がありちょっと残念な感じ(僻み?)でした。突っ込み処が多かったのと、自身の研究に関わる内容だったので結局時間かかってしまった…1時間はキツイので次からはもっとサラッとやろう…

大学院を卒業してはや3ヶ月…(非常勤ですが)大学籍でやっていく研究、個人的にやりたい研究、進めるべきプロジェクト、新たにご相談いただいた研究、研究者として独り立ちするための勉強…時間がいくらあっても足りません。唯一の楽しみの晩酌ですが、ワイン飲むと寝てしまって仕事できないのでそれも我慢しないといけないのか…と切なくなる今日この頃。でも悠長なことは言ってられませんので、頑張らないと!

ということを理由に全然脊椎の論文を読んでいなかったのですが、たまには発信しないと~ということで、イギリス留学中の同期の誉れが紹介してくれたSpineの興味深い論文をカンファまでの隙間時間で読んでみます。

Decisional Regret Among Older Adults Undergoing Corrective Surgery for Adult Spinal Deformity: A Single Institutional Study

研究疑問 :成人脊柱変形(ASD)術後に後悔する人はどのくらいか?
研究デザイン :記述研究
セッティング :米国4次病院(単施設)

P ASD手術を受けた65歳以上の患者 91人
O 術後2年時の後悔

ASD手術後に後悔する患者の割合やその特徴についての報告がないので、調べてみました!という研究。

【方法】
・2016.1月~2019.3月の連続症例を対象
 - 腸骨までの4椎間以上の固定術
 - SVA5cm、LL30°、TK60°、PT25°、PI-LL10°、術後1年以上経過
・Ottawa decision regret questionnaireで測定
 - 1-5の5段階尺度を100点に換算
 - 平均点40点以上が「medium/high regret」
・背景情報は電子カルテから抽出
・PROsはレジストリに登録されているdataを利用
・うつ、椎間数、性、ASA、術後合併症でロジスティック回帰
 - 各因子と後悔の関連の強さを探索

【結果と結論】 
・155人中91人(59%)が参加
 - 非参加のうち9人が死亡
 - 参加者と非参加者の背景情報に大きな差はなし
・手術は有害だった(21%)、手術を後悔している(21%)
・うつのオッズ比は 3.97 (1.06, 14.91)
で、ASD手術患者の2割は後悔していて、うつが多かったとの結論。

ちなみに、外科医として興味深い症状についてのdataは以下
<後悔していない群>
ODI 術前 42 [17] 1Y 29 [16]
VAS腰痛 術前 6.5 [2.6] 1Y 4.0 [2.5]
VAS下肢痛 術前 5.2 [3.1] 1Y 3.0 [3.0]

<後悔している群>
ODI 術前 41 [10] 1Y 36 [21]
VAS腰痛 術前 6.0 [3.2] 1Y 5.5 [2.9]
VAS下肢痛 術前 5.5 [3.0] 1Y 3.5 [2.9]

【批判的吟味】★★★
なかなか踏み込みにくい興味深いテーマだと思います。手術患者全員にアポとって追加調査している点は尊敬しかありません。満足群は腰痛・下肢痛ともに2点くらい改善している反面、不満群は腰痛の改善が乏しいのは興味深いです。うつが不満につながるのも感覚的に納得。

ただ、この研究で一番(というか唯一)注意すべきは「どのように満足度を調査したか」、すなわち調査者や治療者に対する匿名化はできていたか?という点です。日本ほど気は使わないかもしれませんが、術者や担当医が結果みるかも?と思ったらホンネは言い辛いもの。受診した際にアンケート書いてくださいね、と渡しただけであればちょっといいように書く可能性がありますので、結果は過小評価されています。匿名化にこだわっていればMethodsにまず書くでしょうし、同意とってるので匿名化はされていないのでしょう。また、これは仕方ないのですが、参加していない4割の満足度は参加した6割とは確実に異なるのでやっぱり過小評価していると思います。

【コメント】
大変で専門性が高い手術ですので、経過が思わしくない患者が2割いるのはやむを得ない、というか8割良くなっていたらいい治療だな~と思います。ただ、納得して意思決定していれば、結果に関わらず後悔はしないはずです。価値観は人それぞれですから後悔している人が0にはなり得ませんが。(少なくとも)2割が後悔しているのは看過できない数字だと思います。診断精度を高めたり、Shared-desicion-makingを普及させることは喫緊の課題なのでしょう。ASD手術に限った話ではなさそうですが…なら全然他人事じゃないっす…

近年レセプトデータなどの、いわゆるビッグデータを用いた研究が増えてきています。ビッグデータは各データは浅い(粗い)ものの、悉皆性の高さ全体としてのデータ量が大きいことから、これまでの施設ベースの研究とは異なった切り口のエビデンスを創出することが期待されます。脊椎関連では国家規模のレジストリであるSwespineや、アメリカの公的医療保険データであるMedicareを使った研究をみかけますが、今回は後者を用いたビッグデータコホート研究の例として、CORR(2019IF4.3;整形外科5位)の論文を読んでみます。

What Is the Value of Undergoing Surgery for Spinal Metastases at Dedicated Cancer Centers?


研究疑問 :特定がんセンターでの脊椎メタ手術の費用対効果は?
研究デザイン :データベース研究
セッティング :Medicare(原則アメリカの65歳以上全員が加入)
*2005~2014のdataを使用

P 脊椎メタで手術を受けた患者(椎体形成のみは除く)
E 特定がんセンターで手術
C 特定がんセンター以外で手術
O 合併症/コスト(術後90日)

特定がんセンターでは、Medicareでも例外的に包括支払いではなく出来高払いが行われる。担癌患者の寿命伸延に伴い脊椎メタおよびその手術が増加し、効果は報告されている。しかしがんセンターが費用に見合う効果を提供しているかは不明である。そこで調べてみました!という研究。

【方法】
・ICD-9コードで「除圧術」「固定術」「脊椎メタ」を同定
・「がんセンターかどうか」も同定
・ほか背景因子として以下を同定
 - 年齢、性、地方、低所得地域かどうか、原発巣、合併症
・施設因子として以下を同定
 - 都心か、病床数、がん認定病院か、脊椎メタ手術数、公私
・手術因子として以下を同定
 - 術式、手術椎間数、術前放射線/化学療法
・合併症の定義は以下
 - 創部、循環、塞栓、敗血症、肺炎、尿路感染、腎、救急受診、
   インプラント問題、再手術、再入院、死亡
・コストは手術日から術後90日までを集計
・1138/17776(6%)が特定がんセンターの手術だった
・解析はまず検定
・合併症の発生割合差は混合効果ロジスティック回帰
 - コストの差はγ分布/対数リンク?の混合効果モデル
 - いずれも施設因子で層化し、背景因子と手術因子で調整

【主な結果と結論】 
特定がんセンター vs 非特定がんセンターで差がついたのは以下
 敗血症 7% vs 10% aOR 0.54 (0.40, 0.74)
 尿路感染 19% vs 28% aOR 0.61 (0.50, 0.74)
 腎障害 9% vs 13% aOR 0.55 (0.42, 0.72)
 救急受診 27% vs 31% aOR 0.78 (0.64, 0.93)
 死亡 39% vs 49% aOR 0.75 (0.63, 0.89)
 コスト差 -14802$ [SE 1362]; p<0.001  

との結果で、特定がんセンターは質が高く低コストな医療を提供しており、その仕組みを他の病院も学ぶべきでしょうとの結論。

<Limitationのまとめ>
・著者全員が特定がんセンター所属だった
 - でもちゃんと報告してますし、data自体は客観的です
・細かな術式の情報がない
 ‐ 固定のみが想定外に多かったのも変
・若年層が入っていないので一般化に限界
 - でも特定がんセンターの例外的包括支払はMedicare受給者に限定
 - 特定がんセンターの価値をみる研究としては妥当な対象
・施設因子に総スタッフ数、看護師比率、レジストリへの参加がない
 - でも経時変化する変数だから捕まえれない
・術者の経験や技量のデータもない
・施設による手術テクノロジーのデータもない
・がんの状態のデータもない

【批判的吟味】★★★★
「施設効果」という介入の効果をみる研究なので理論的にはRCTがbestですが、施設へのランダム割付とか無理だし、盲検化もできないので実質データベース研究一択です。データベースはテーマに沿っているし、悉皆性も高いので相当いい研究!どうしても各変数は浅くなってしまい、(limitationにかなり厚く書かれていますが)原疾患や脊椎病巣の病状、術者の経験と技量、術式など最も重要な因子が未測定/残余交絡となって大きく比較の質を損ねてはいます。が、有意にならなかったアウトカムも含め、軒並み特定がんセンター>非特定がんセンターだったことからも、結果は頑健かと。小規模だけど深い研究と比べると、対象の代表性や純粋な検出力に大きな優位性があります。

【コメント】
研究テーマによっては相当有効なデータベース研究、データベースへのアクセスやデータソース突合の敷居が下がって、日本でももっと色々できるようになれば素晴らしいです。研究デザイン力や解析の引き出しを増やして、未来にそなえなきゃ…

先日介入の効果をみる前向きコホート研究(非RCT)を読みましたが、引き続きお手本となるコホート研究を読んでみます。ある特徴が将来のアウトカムと関連するか?という予後をみる研究については、前向きコホート研究が最強になります。まぜなら「ある特徴」は介入と違ってランダム割付することができず、RCTが不可能だからです。それこそ研究デザイン力が結果の精度に大きく影響する臨床疑問になります。やぱりお手本なんで、JAMA様から…

Long-term risk of incident vertebral fractures


研究疑問 :低骨密度(BMD)は将来の骨折と関連するか?
研究デザイン :前向きコホート
セッティング :Study of Osteoporotic Fractures(SOF)
*1986年に開始、米4施設で構成

P 高齢白人女性(平均年齢69歳)
E   既存骨折あり
C 既存骨折なし
O 新規骨折

P 高齢白人女性(平均年齢69歳)
E   低BMD(単位は1SD)
C BMD正常
O 新規骨折

以前に低BMDと椎体骨折の関連、および既存椎体骨折と続発椎体骨折との関連について報告したが、平均3.7年のfollowと短かった。ので、15年以上観察した報告をまとめてみますとの研究。

【方法】
・細かな研究計画は先行研究参照
 - 黒人女性はリスクが低いので含んでいない
・研究参加9704人
 - 第8回調査対象は4284人(44%)
 - 実際に受診したのは2797人(29%)
 - うちX線が撮れて、読めて、ベースラインX線もある2680人(28%)を解析
・X線ではT4-L4の前方・中央・後方椎体高を測定
 - まず盲検化された3人でスクリーニング
 - 各X線で一番変形が強そうな椎体を、正常/微妙/たぶん骨折に評価
 - たぶん骨折だけ細かく測定
 - ランダムサンプル503人で試し測定
 -感度は「既存骨折」「新規骨折」それぞれ97%, 100%
・「既往骨折」の判定には前方/後方、中央/後方、後方/尾側椎体の後方を使用
 - いずれかが3SD未満の場合に「既存骨折」
・「新規骨折」の判定には前方、中央、後方を使用
 - いずれかが20%もしくは4mm減高で「新規骨折」
・BMDは踵骨、橈骨、大腿骨、大腿骨頸部、腰椎で測定

<解析>
・まず本研究対象2680人と非対称7024の背景を比較
・骨折時期はわからないので(Coxではなく)ロジスティック回帰
 - まず年齢と施設で調整
 - 続いてさらに骨粗鬆症加療、非脊椎骨折既往、BMI、喫煙習慣で調整
・ 年齢/施設モデルでROC解析(各BMD部位で)
 - さらに70歳以上/既存骨折で層化した解析も
・BMDと既存骨折で絶対リスクを算出

【主な結果と結論】 
・487(18.2%)に新規椎体骨折が発生
 - 既存骨折ありは163/394(41.4%)、なしは324/2286(14.2%)
 - 既存骨折のオッズ比は4.21 (3.33, 5.34)
・低BMD(1SD単位)も新規骨折の発生と関連
 - (大腿骨で)オッズ比 1.78 (1.58, 2.00)
・大腿骨BMD‐2.5SD未満+既存骨折ありの新規骨折発生は56%
 - 一方BMD正常で既存骨折は9%

既存骨折ありと低BMDはいずれも独立した新規骨折のリスク因子であり、既存骨折があり更に低BMDなら注意!との結論。

<Strength / limitationのまとめ>
・地域住民を対象とし、サンプルサイズが多く、15年目のX線を用いている。
・高齢白人女性以外(他の人種や男性)に結果が当てはまるかは不明
・生存者の多くが再診したが、再診しなかった人よりベースラインが健康だった
 - ので、骨折リスクを過小評価している
・腰椎と大腿骨のBMDはベースラインの2年後に測定
 - でもベースラインで測定した踵骨や橈骨とかわらない結果

【批判的吟味】★★★★★
アメリカやっぱ規模がすごいです。この研究幾らかかってるんだろ…ここまでやれば観察研究でもJAMAに載るんですね。解析は(私でもわかるような)シンプルなものですが、当時は旧き良き時代だったから?ツッコむところがあるとすれば、観察研究なんで交絡の調整は十分か?というところ。パーキンソン病、ステロイドはじめとした二次性骨粗鬆症…骨折と関連する疾患は相当たくさんあります。ただ、だからといってこの研究の結果が覆るとは思えませんし、結果に異論を唱える人はいないでしょう。ちなみにこれを「高齢日本人」で調べるのも重要かも(日本人だけ対象でJAMAに載るかはわかりませんが…)。

【コメント】
PubMedでSOFをひくと約30の文献が…やっぱり大きなコホート研究は枝論文が結構でますね。かく言う私も福島医大/京大のコホート研究の脛をかじりまくらせていただいています。「予後をみる研究」はRCTできない分、コホート研究頑張れば最善のエビデンスが出せますので、それこそ脊椎絡みの多目的コホート研究、多施設でできないかなぁ…「介入の効果をみる研究」のための疾患特異的レジストリも必要ですけど。

本日は私の人生の転帰ともなった臨床研究デザイン塾でした。コロナ渦の影響でWeb開催になったのですが、これはこれでコンパクトにまとまっていい会だなぁと改めて刺激をいただきました。私の班の皆さんもそうだったのですが、やはり臨床医が一番調べたいのは「介入の効果」だなと再認識。理想としてはRCTでしょうが、費用面ほか高根の花、というか非現実的。じゃあどうしよう?というのが切実な問題です。RCT頑張っても選択バイアスは問題ですし。個人的には前向きコホートしかないんじゃないかな?と思っています。ので、今回はお手本として「介入の効果をみる前向きコホート」を読んでみます。JAMA様なら間違いないでしょう!

Surgical vs nonoperative treatment for lumbar disk herniation: the Spine Patient Outcomes Research Trial (SPORT) observational cohort


研究疑問 :腰椎椎間板ヘルニア(LDH)に手術は有効か?
研究デザイン :前向きコホート
セッティング :Spine Patient Outcomes Research Trial(SPORT)
*RCTとRCT拒否者で構成された前向きコホートで構成
*米11州13施設

P LDHによる根症状(6W以上)がある患者
I 手術
C 保存(指導、PT、NSAIDsなど)
O 主要:SF-36(BP/PF)、ODI(3M, 6M, 1Y, 2Y)
  副次:治療成功感、就業、満足感、坐骨神経痛

SPORT(RCT)におけるITT解析では手術と保存に差が出なかった。でもRCTは一般化に問題があるし、介入が定期手術なのでクロスオーバー(手術群⇄保存群)がITT解析の結果を歪める。ので、SPORTでは前向きコホート研究もするんですよ!という研究。

【方法】
・細かな研究計画はプロトコル論文参照
・看護師が適格者を抽出し、RCTか観察研究への参加を提案
 - 観察研究を選んだ患者は医師を受診
 - 手術かそのまま保存かを自己選択
・手術はopen diskectomy
・坐骨神経痛の程度はSciatica Bothersomeness Indexで測定
・アウトカムはベースラインからの変化と改善者の割合として比較
 - 保存群は割付時をベースライン、手術群は手術直前をベースライン?
 - 測定日がズレた場合は、線形補完した平均値を使用
・解析モデルには欠測とアウトカムに関連する変数を投入
 - 複数測定の影響に変量効果モデルを使用

【結果と結論】 
・潜在適格者1991人中1244人がSPORTに参加
 - 743人が前向きコホートに参加(手術希望521人/保存希望222人)
・参加者の97%が1回は測定でき、解析に組み入れ
 ‐ 各測定時点での測定割合は82‐89%
・手術⇄保存のクロスオーバーで結局手術528人/保存191人
・保存治療の内訳以下
 - 指導92%、NSAIDs58%、麻薬系35%、PT43%、ブロック38%
・手術合併症は以下
 - 輸血2人、硬膜損傷2%、再手術1年7%2年9%(半分が再発で)
・主な効果は以下(手術 vs 保存)
 BP変化量 (3M) 40.9 vs 26.0 差14.8 (10.8, 18.9)
 PF変化量 (3M) 40.7 vs 25.3 差15.4 (11.6, 19.2)
 ODI変化量(3M) -36.1 vs -20.9 差 -15.2 (-18.5, -11.8)
 BP変化量 (2Y) 42.6 vs 32.4 差10.2 (5.9, 14.5)
 PF変化量 (2Y) 43.9 vs 31.9 差12.0 (7.9, 16.1)
 ODI変化量(2Y) -37.6 vs -24.2 差 -13.4 (-17.0, -9.7)

このように、手術群の方が改善がよかった!が、自己申告のアウトカムなので解釈は慎重に行うべきであるとの結論。

<向学のためにlimitationのまとめ>
・適格基準が厳しいので、結局一般化に支障
 - 6W我慢できなかった人が含まれていない
 - でもガイドラインでは6W待つわけだから影響は小さいでしょ
・保存的加療は多様すぎる
 - 一部無効だったり有害だった場合に手術の効果を誇張
 - でもだいたいどの治療も効果あるとされている
・欠測が14~18%あった
 - でも複数の感度解析で結果が覆らないことが示された
・盲検化されていないうえに、アウトカムが自己申告
 - 後療法への意欲、期待、変化への気づきなどが結果を修飾
・すべての患者や術者の要因を考慮することは不可能
 - 未測定交絡がどの程度結果に影響しているかは不明

【批判的吟味】★★★★★
どこかでSPORTの枝研究読んで、もう一つだな…と思っていたのですが、本家はすごかったです。もう15年前にこんなに丁寧な研究がされていたんですね、そりゃJAMAに載るのも納得。RCTと対じゃなく、この研究1本だけなら無理だったでしょうけど。思いつくLimitationは全部書かれていたし、突っ込み思いつきません。お手本にするには交絡や欠測の取り扱いの詳細がなかったのが物足りなかったのは残念ですが、プロトコル論文には書いてるのかな。てかプロトコル論文がSpineに載るってすごい…

【コメント】
PubMedでSPORTをひくと100以上の文献が…これだけ大きな研究に関われたら臨床家/研究者として一生の仕事になりますね。それにしても「非盲検化」「アウトカム自己申告」は相当手ごわい問題…結局1/3が研究参加自体を拒否しているので、選択バイアスも結構ありそうだし。でもこれ以上どうしたらいいんでしょうか…バイアスも含めて治療効果!患者良くなってたらそれでいいじゃん!という考えもあるでしょう。でももし結果がバイアスからきてるなら、手術してなくても良くなってたじゃん!ということになるんですよね。手術の純粋な効果をみるのはホントに難しい…(てかシャム手術しないと無理?)

このページのトップヘ