二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ: 手術関連エビデンス

明日は博士審査の際の発表予演です。原稿はできたのですが、ちょっと頭冷やして見直すために一旦切り替えてEAをチェックしてみます。何となく臨床的に使えそうなものを…というわけでBMC Musculoslelet Disord(2020IF2.4)の、術後トランサミン(TXA)局所投与の出血減少効果についてのRCT。おそらくSpineとか格上の雑誌でRejectされてのBMCなので、ちと厳しそうですが質はどうでしょう。SpineのRCTも結構や〇いので…しかも中国か…

Combined topical and intravenous administration of tranexamic acid further reduces postoperative blood loss in adolescent idiopathic scoliosis patients undergoing spinal fusion surgery: a randomized controlled trial

研究疑問 :術後TXA局所投与は出血減少効果があるか?
研究デザイン :RCT
セッティング :中国1施設
*2019.7月~2020.8月

P 思春期特発性側弯症(AIS)手術 80人
I ドレーンからTXA2g投与して2時間クランプ 40人
C ドレーンから生食投与して2時間クランプ 40人
O 主要:術後ドレナージ量 副次:輸血割合、入院日数、合併症など

AIS手術は大きな手術なので、術後出血による輸血が問題となる。以前TXAの局所投与が有効である可能性を報告したので、追証しました!という研究。

【方法】
・中国の臨床試験レジストリに登録(非公開)
・サンプルサイズは出血量2割減を検出するために1群39人
・ランダム割付けは封筒法で1:1
・盲検化の記載があるのは割付者と解析者のみ
 - アウトカム評価者は盲検化されていない?
・術中は両群ともにTXA1g静注+10mg/kg/h持続静注
・ドレーンは20ml/8hになったら抜去
・Hb値が70g/l以下、もしくは70-100g/lかつ貧血症状ありで輸血
・解析は検定のみ
 - 解析集団についても未記載

【結果と結論】 
・潜在適格者90人中85人がランダム割付(I群43人C群42人):ITT集団
 - 介入受けたのはI群42人C群41人:FAS集団
 - 解析はI群40人C群40人:Per-Protcol集団で94%
・両群に明らかな背景差はなさそう
・ドレナージ量(ml)は *I群 vs C群
 初日 192 [90] vs 265 [102]
 2日目 103 [80] vs 156 [98]
 3日目 63 [85] vs 105 [85]
 合計 372 [130] vs 545 [208]
・輸血/合併症はI群4例とC群5例で差なし
・入院日数は 6.5 [1.5] vs 8.0 [1.4] 

というわけで、ドレーンからのTXA投与はドレナージ量減少に効果ありとの結論。

【批判的吟味】★★★
研究フレームがシンプルで、ストレスなく読めるし(思ったより)いい研究でした。ただ大きく変なところはないですがシンプル過ぎて著者の中に方法論を理解した人がいなさそうだし、偏見で申し訳ないけどやっぱり中国の1施設なので、ホントにズルせず遂行しているのか(割付の隠蔽化や評価者の盲検化はできていたのか?)という一抹の不安は拭えません。なんでプラセボ使っているのに盲検化について殆ど記載がないのか(プラセボを使う意味からわかってなさそう)…ちなみにRoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Some Concerns
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 High risk
5. 選択的な報告 Some concerns

RCTの質としてもちょっと微妙かなと。そもそもRCTがやりやすいテーマなので大きくコケてはなさそうです。でも結果に大きく影響はしないでしょうが、解析対象集団は多分Per-Protcolなので「2.割付の盲検化」にLowは付けれません。盲検化の情報は少なすぎるのでこれも疑わしきはクロ、ということでHigh risk。プロトコルも公開されていないので「選択的な報告」もSome concernsです。

【コメント】
ドレーンから投与するのは感染リスク高まりそうで気持ち悪いのですが、創内に撒くのはだめなんでしょうか?この研究がちゃんとした研究なら、もっとしっかりしたRCT組んで検証してみてもいいのかもしれません。まぁ正直総ドレナージ量が150ml違うのは別に大きな問題ではなくて、稀な術後血腫貯留を予防できるか?が知りたいところ。これは絶対RCTはできないので、ある程度実際にやる人がいるならNが大きいデータベース研究するしかないです。

大学院も修了が近づき、学位審査の準備をはじめ業務に収集がつかない昨今、ブログの更新も気が付けば1ヶ月も滞っていました…EAのチェックはいつ以来だろう。恐る恐るみてみると120本!も溜まってます。慌てて読んでもいいかな?と思う文献20に絞り、ぼちぼちみていこうかと思います。Journal of Pain Research(2020IF3.1)の、術後局麻についてのRCT。質はさておき、臨床的に役に立つかも!?中国のRCTか…

Erector Spinae Plane Block for Perioperative Pain Control and Short-term Outcomes in Lumbar Laminoplasty: A Randomized Clinical Trial

研究疑問 :椎弓切除術後痛に脊柱起立筋面ブロック(ESPB)は有効か?
研究デザイン :RCT
セッティング :中国1施設
*2018.9.1~2019.5.31

P 腰椎椎弓切除 62人
I 常の鎮痛にESPB追加 32人
C 通常の鎮痛 30人
O 主要:術後48時間までの疼痛VAS推移
  副次:術中オピオイド・麻酔薬量、術後オピオイド量、PCA回数、
   満足度、術後合併症、入院期間、入院コスト

エコー下に横突起と脊柱起立筋間に麻酔薬を浸透させるESPBが流行っており、腰椎術後の除痛効果に期待されている。しかしのその効果はわからないので調べてみました!という研究。

【方法】
・中国の臨床試験レジストリに登録(retrospectivelyに?)
・包含対象はLSSに対する2-3椎間の除圧術
 - 除外基準はLSS手術歴、BMI異常など
・ランダム割付は封筒法
・術者は非盲検
 - 術後評価は盲検化された看護師が施行
・ESPBは全麻後皮切前に両側に施行
 - 2椎間の場合は頭側椎間、3椎間の場合は中央椎間
 - 0.375%ロピバカインを1側20mlをエコー下に注入
 - 浸透させるため30分待って執刀開始
・40人のパイロット研究をもとにサンプルサイズ計算
 - 検出力0.8、10%脱落で片群36例
・解析方法だけ(謎に)詳述…明らかに冗長
 - 術後1/3/6/12/24/48hのVASを測定
 - Ball Divergence(BD)検定で48時間までのVAS推移を比較

【結果と結論】 
・潜在適格者72人中70人が参加(除外は参加拒否の2人)
 - 脱落がI群3人(9%)とC群5人(14%)で解析対象は62人(89%)
・VASは術後6hまでは有意にI群が低く、12h以降は同等
 - VAのピークはI群が12hで約3、C群が1hで約4
 - BD検定のP値は0.01
・その他のアウトカムもI群が優れていた

というわけで、ESPBは術後鎮痛に効果あるし患者満足度も高いよ!という結論。

【批判的吟味】★★★
テーマはシンプルでわかりやすいですし、効果ありそうだな~と思える研究でした。ただし方法論的なところは後付け感満載なところも含めかなり粗く(アウトっぽい点もちらほら)、本当に効果があるかはかなり眉唾です。大きな点をいくつか挙げると

・ちょっと頑張ればプラセボ使えるのに使っていない(時点で…)
・I群だけ全麻後にESPB手技+30分待機なので、麻酔時間明らかに長い
 - 麻酔時間みれば割付すぐわかる
・多分研究終了後にレジストリ登録してる(無意味…)
・多分サンプルサイズ計算がめちゃくちゃ(情報不十分で判定もできず)
・48h VASで差が出なかったので後付けでBD検定してるのでは…

ちなみにRoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 High risk
5. 選択的な報告 Some concerns

RCTの質としてもちょっと微妙かなと。そもそもRCTがやりやすいテーマなので大きくコケてはなさそうですが、自己申告アウトカムで患者の盲検化が怪しいところは無視できません(プラセボ使えば回避できた)。プロトコルは公開されていないし、後付け感満載なので甘く評価しても「選択的な報告」はSome concernsでしょう。というかそもそも全体的に胡散臭い…

【コメント】
まぁecho下に局麻するくらい簡単だし、害もなさそうなので臨床的にはやってみてもいいかな~という点では読んだ意義がありました。一度RCTとして世に出てしまうとエビデンス総体に大きな爪痕を残すので、個人的にはこの質ならrejectしてしまいますが…もっとちゃんとしたRCTをやる動機付けにはなるし、研究としても意義はあるか。

私のような者に恐縮でしかないのですが、最近は色々なプロジェクトや公的なお仕事にお声がけいただくようになり、益々時間の確保が難しくなってまいりました。ルーチンワークにすべき論文checkがおろそかになっているので、今日は久しぶりにSpineの論文を読んでみます。お手本論文を読むのは結構疲れるので、リハビリも兼ねてネタ重視で。私のような冴えない脊椎外科医だと、2椎間固定とかりオペの場合に患者さんひっくり返したら顎と額が腫れている…のは切実な問題ですが、タイの麻酔科の先生から術後顔面褥瘡の論文。

Risk Factors for Facial Pressure Ulcers in Patients Who Underwent Prolonged Prone Orthopedic Spine Surgery

研究疑問 :顔面褥瘡のリスク因子は?
研究デザイン :過去起点コホート研究
セッティング :タイ1病院
*2018年1月~2019年4月のdataを収集

P 3時間以上の腹臥位脊椎手術を受けた患者 300人
E リスク因子あり
C リスク因子なし
O 顔面褥瘡

3時間の腹臥位手術では顔面褥瘡が結構あるけど、細かく調べた研究が実はなかったので、まずリスク因子を調べてみました!という論文。

【方法】
・ほか包含基準はパッドを用いた腹臥位、10‐90歳
・除外基準は術前から顔面の皮膚にトラブルあり、データ欠測
・収集するのは
 術前因子:背景情報、並存症、内服、喫煙習慣、
      ASA、PS、Hb、血圧、Waterlowスコア
 術中因子:診断、術式、パッド(2種)、手術時間、
      麻酔時間、最低血圧、食道温、出血量、
      補液量、輸血、血圧低下の発生と持続時間、
      降圧剤使用
 術後因子:術直後・24時間・48時間の顔面褥瘡、
      術後Hb
・顔面褥瘡は麻酔科医と看護師がNPUAP基準に沿って評価
 - 部位は額、鼻頬部、顎
・最終的なリスク因子は4因子と予想
 - Event Per Variable≥10を目安に必要例数285と試算
・過去起点で160例収集、不足分を前向きに140例収集
・リスク因子の探索方法は以下
 - 単変量解析p>0.05で事前選抜 
 - 残った因子を多変量解析し関連の強さをオッズ比で評価

【主な結果と結論】 
・顔面褥瘡の発生は82人(27.3%)
・褥瘡の発生部位は額33%、鼻頬34%、顎33%
・事前選抜で残ったのは
 - 手術時間、麻酔時間、低血圧の発生、最低血圧、出血量、
   補液量、輸血、最高体温
・多変量解析の結果
 低血圧の発生 OR 2.8 (1.4, 5.2)
 最高体温 OR 2.0 (1.1, 3.3)
 補液量 OR 1.1 (1.0, 1.1)

結果上記の3因子がリスク因子として選抜されたので、気を付けましょうとの結論。

【批判的吟味】★★★
リスク検証がしたいのに、フレームはリスク探索型になっている(目的と方法が解離している)研究が多い昨今、なかなかみないのですがリスク探索を丁寧にやった研究。わかりやすいし、解釈も妥当で素晴らしい研究だと思います。サンプルサイズ計算にはこじつけ感が否めませんし、データ欠測例を除外基準に入れてるのは微妙だし、せめてフローチャートで除外者数は示すべきではありました(研究対象にどの程度代表性があるか評価できない=選択バイアスの大きさを想像できない)。さらには、前向きにも収集しているのでアウトカム評価者の盲検化は欲しい、BMIだけじゃなくて体重も入れる(長い脊椎手術受ける=変形矯正も多い=BMIではあてにならない)、DMはあり/なしではなくHbA1cなどでカテゴリ化する、動脈硬化系の変数も入れたい、パッドや術者を層化した解析の方が妥当では?、などいくつか改善できそうな点もあります。一番のキモである「研究結果の臨床的意義」についての記載もみあたりませんでしたし。いいかえると、本研究はあくまでリスク探索型のフレームなので、今後例えば低血圧の発生と顔面褥瘡の因果関係を検証しにいく検証型の研究が必要!のような、これで終わりじゃないよ的な記載をどこかにして欲しかったです。あと、ほんとに顔面褥瘡の先行研究なかったの!?というのはそもそも気になるところ...

【コメント】
こんなこと書くとお前誰やねん!と怒られそうですが、方法論がきれいな臨床研究をSpineで読めたのは嬉しいことです。単施設だし、研究期間もサンプルサイズも臨床医で十分手の届く内容で夢がある研究でした。麻酔科チームだから…と思わなくてすむよう、整形外科(もしくは神経外科)医からのきれいな臨床研究が増えることを願います。

忙しさにかまけてなかなかEAをチェックできていなかったので、臨床の隙間時間を利用してみてみると…100文献以上たまっていました涙。殆どが私には直接関係ない整形絡みの論文ですが、なかに相当重要な論文を発見!「頚髄症手術は前から後ろからどっちの方がよい?」という、古来より結論が出ていない臨床疑問に対し、なんとJAMAにRCTが…これは読んでおかないと完全なモグリです。いったいどこの国から?とみてみるとやっぱりアメリカの多施設。さすが…

Effect of Ventral vs Dorsal Spinal Surgery on Patient-Reported Physical Functioning in Patients With Cervical Spondylotic Myelopathy: A Randomized Clinical Trial

研究疑問 :頚髄症(CSM)では前方>後方か?
研究デザイン :RCT
セッティング :北米15施設
*2014.4.1~2018.3.30

P 多椎間CSM(45~80歳)
I 前方除圧固定 63人
C 後方除圧もしくは除圧固定 100人
O 主要:SF-36(PCS, 1Y)
  副次:JOA, 合併症, 就業, SVA, Health resourceの使用?, NDI, EQ-5Dなど

CSMの手術は年々増えていて(2009年にnational health優先課題100に選抜)、米国では術後の頚部痛の少なさから前方除圧固定が良いとされる。でも結局前後どちらがよいかはっきりわかっていないので、調べてみました!という研究。

【方法】
・プロトコルと解析計画書を付録で添付
・CMSの定義は以下
 ①症状所見で以下2つ以上
  - 手の痺れ、歩行障害、深部腱反射亢進、バビンスキー陽性、膀胱障害、クローヌス
 ②2椎間以上の病変
・除外基準は以下
 - C2-7の後弯が5°以上
 - 前方骨棘が3椎間以上
 - 大きな骨棘やOPLL
 - 過去の頚椎手術既往
 - ASA4以上
・15人の専門家パネルが臨床的にequipoiseか(RCTして問題ないか)判定
 - 12人以上の合意
・5or10の置換ブロックで2:3に割付
・後方除圧の場合固定追加するかは術者の判断
・ランダム割付拒否/ランダム割付が不適格な患者もコホートとして追跡
・PCSは偏差値に変換
 - MCIDは5を採用
 - α0.05、パワー90%、脱落15%で必要サンプルサイズは159人
・中間解析は行わず、モニタリング委員が合併症を観察
・主解析(PCS)は線形混合モデル
 - 術者を変量効果、ベースラインPCS、介入、時点、介入×時点で構成
・他の解析も同様のモデル
 - 2値アウトカムはカイ二乗検定

【結果と結論】 
・潜在適格者458人中269人が参加、163人がランダム割付
・1年追跡は前方60/63人、後方95/100人で合計95%
 - 2年追跡は80%
・1年時のPCS改善は
 前方5.9 vs 後方6.2 で差0.3 (-2.6, 3.1)
・副次アウトカムの殆ど差なし、差があったのは以下(前方 vs 後方)
 - 合併症割合 48% vs 24%で差24% (8.7, 38.5)
 - 嚥下障害 41% vs 0%
 - 神経症状悪化 2% vs 9%
 - 再手術 6% vs 4%
 - 1ヶ月再入院 0% vs 7%
 
このように、別に前方が優れているという結果がでなかったとの結論。

<向学のためにlimitationのまとめ>
・椎弓形成をランダム割付できなかった
 - 椎弓形成をしているのは5/15施設しかなく米国では一般的ではないので
 - なので、事後解析のため後方群を多めにした
・Nが少ないのでサブグループ解析は微妙
・後方術式選択にバイアスが入っているかも
 - 除圧のみと除圧固定の適応は今後の課題

【批判的吟味】★★★★★
めちゃくちゃ頑張らないシンプルなデザインでも、ネタが重要で丁寧にやればJAMAに載るという夢のある論文。まぁ「優先課題100」だったり、JAMAのお国元である北米の研究ってのも大きいでしょうけど。前方か後方かサイコロ振って決めさせろ!というのもよほど有名な病院じゃないと患者逃げちゃいますから、民間病院ではできないですが涙。RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 Some concerns
5. 選択的な報告 Low risk

RCTの質としてはかなり高いかなと(じゃないと今の時代JAMAには載りません)。欠測は約5%と少ないし、術式のクロスオーバーもかなり少ない。自己申告だし、PCSだとちょっと緩い気はしますが他にないんだから仕方ない。Flow chartの始まりが包含基準満たした対象じゃなく、その前の「Patients screened」になっているのもTop journalならでは。スタートの458人から、参加拒否とかランダム割付拒否で落ちたのが26人しかいないって俄かには信じがたいですが…そんだけ強い施設の研究なんでしょう。羨ましい限り…

【コメント】
というか、メジャー施設15のうちLaminoplastyしてるの1/3しかないとかアメリカどうなってんだ!?頚髄症で固定要る人そんなに多いとはとても思えない…どうやら北米は頚髄症後進国なので、カッチリした頚椎の研究は日本発で発信する余地が大分ありそう。だから頚椎後方はアジア発の論文が多いのか…日本での臨床経験しかない田舎者なので、なかなかピンときませんが。これは探せばネタはいくらでもありますね…時間がないけど涙

Penalised regressionについて少し学んだところで、実例をみてみることに。変数選抜までしようと思ったらlassoになるようなのですが、lassoのお手本論文はないかな~と最近全然論文読んでいないので、Core clinical journalで「lasso」を探してみます。するとJBJSに面白そうな論文が。方法論的にお手本になるかどうかはちと不安ですが、折角なので読んでみます。

Predicting Occurrence of Spine Surgery Complications Using "Big Data" Modeling of an Administrative Claims Database

研究疑問 :脊椎手術合併症予測モデルの開発と検証
研究デザイン :データベース研究
セッティング :2006~2020の米レセプトデータベース

P 脊椎手術患者
E 各リスク因子あり
C 各リスク因子なし
O 主要:何らかの合併症
  副次:合併症数、入院期間、入院費、再入院、再手術

脊椎手術後の合併症を予測する予測モデルはなかったので、大規模データベースを使って開発と検証を行ってみました!という研究。

【方法】
・脊椎手術病名がついた患者を特定
 - 変性疾患、外傷、腫瘍、感染に分類
 - 並存症の病名とも収集
 - 術後1ヶ月以内の各種新規病名を合併症と定義
・予測因子を入院、外来、調剤、医師/病院への支払いレセプトから収集
 - 術前診断、11並存症、頚椎/胸腰椎、前方/後方、癒合、
   インスツルメント、多椎間、BMP
・まず開発コホート(80%)で主要アウトカムの予測モデル作成
 - 通常のロジスティック回帰にすべての因子を投入?
 - 術式で層化した予測モデルも作成
・残り20%で検証
・交互作用項を含めたモデルでlasso回帰も施行
・CARTとboostingによるモデル開発も施行 ←なにこれ…

【結果と結論】 *結果みたいわけじゃないので簡単に
・対象は約28万人
・合併症は14.0%で、先行研究と矛盾なし
・標準、lasso、CART、boostingではCARTの性能が劣った
 - boostingは標準回帰とほぼ同じ結果
 - なので標準回帰とlassoに注目
・でもだいたいAUC0.70前後で大差なし
 - Charlsonの予測能0.61より優れていた

などなどで、術前説明に役立つでしょ?という結論。

【批判的吟味】★★★★
サンプルサイズが莫大だし、イベントも14%あれば統計学的にはやりたい放題の羨ましい研究。ただ、いわゆるBig Smallデータ(浅くて多いデータ)で予測モデル作っても、臨床にどう役立てていいかピンときません。対象の選定も、リスク因子やアウトカムすべてがレセプト上のコードで定義されていますので、臨床使用するには粗すぎて…性能も妥当性検証までして信頼できそうなのは素晴らしいですが、AUC0.7で臨床意思決定に使うのは微妙です。あと、モデル作ったのはいいけど、どう臨床で使うかの説明がない!のでそもそも使い様がない…一応Nの暴力で★4つにはしますが。

というか、みたかったlassoの結果がAppendixになっていて、Ovidでのアクセスではみれず涙。結局細かなところがさっぱりわからなかったのは最大の誤算でした…

【コメント】
Lasso regressionについては3000件ほど既に既報があるようです。数割を占めるMe〇icineの文献はスルーするとして、いわゆるNEJM、Lancet、JAMA、BMJは全然hitしないということは、まだそこまで受け入れられている方法論ではない?というより小細工しなきゃな小規模研究はそもそも選外なのかな。悲しいかなJBJSは肩透かしだったので、次はJAMA₋IMなどをお手本に読んでみることにします。Lassoの勉強に一日使ってしまった…一応STATAで数字出せるようにはなったけど、時間が足りねぇ…

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