二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:疾患別エビデンス > 骨粗鬆症

新しいものには飛びつくな!というお師匠からの教えが染みついており、これまで使ったことがないイベニティ。今お手伝いしているCochrane reviewの対象でもあるので、大元の論文を読んでみよう!と調べると、なんとNEJMでした(2016年)。

Romosozumab Treatment in Postmenopausal Women with Osteoporosis.

研究疑問  :romosozumabの骨折予防効果は?
研究デザイン:RCT
セッティング:北米多施設?(本文中に詳述なし←protocol参照と)

P 55-90歳女性の骨粗鬆症外来患者 7180人
I  Romosozumab皮下注 210mg/M×12
C ブラセボ皮下注/M×12
O 主要 :新規椎体骨折(12M、24M)
副次 :その他の骨折 
安全性:有害事象
*骨代謝マーカーを追ったサブグループ(128人)の結果は割愛

2001年にsclerostin欠乏が骨肥大を生じることが報告され、骨粗鬆症治療としての利用が期待されてきた。2011年にsclerostinのモノクローナル抗体であるromosozumabに骨新生と骨吸収効果があることが報告された。これは低骨密度の閉経後女性を対象とした第Ⅱ相試験(2014年)で裏付けられたので、今回第Ⅲ相試験に進みました、という研究。

【方法の詳細】
・年齢(75歳)、椎体骨折有無で層別ランダム割付
・患者、調査者、スポンサーは24M盲検化
・骨粗鬆症の定義はtotal hipもしくはfemoral neckのTスコア-2.5~-3.5
・両群Ca+VD/Dを併用、12M経過でプラリア1Y
・ほか包含基準は
 - L1-4いずれか2椎および一方の大腿骨頚部で骨密度測定可
・除外基準は
 - 大腿骨頚部骨折歴、
   椎体骨折が重度1椎もしくは中等度2椎、
   骨代謝異常、顎骨骨粗鬆症、低VD血症、
   最近のCa値異常、骨粗鬆症治療中
・椎体骨折はX線でのGenant grading scale(0-3)1等級以上の悪化
・サンプルサイズは
 - C群の椎体骨折発生は2.1%と予想
 - 12Mで65%、24Mで62%の予防効果を99%検出可
・解析の詳細
 - 多重比較にFixed sequence testing procedure
 - 主解析はITT集団、X線の欠測はLOCFで補完
   多重補完で感度解析
 - Mantel-Haenszel法でリスク比を算出
   年齢と既存骨折数をロジスティックモデルで調整

【結果と結論】
結果は12Mまでの新規椎体骨折はI群 16/3321 (0.5%) vs C群 59/3322 (1.8%)でromosozumabには73%のリスク減少効果があり、効果ありとの結論。ほか結果は

・12M臨床的骨折(非椎体+症候性椎体)はI群 1.6% vs C群 2.5%で36%のリスク減
・12M非椎体骨折はI群 1.6% vs C群 2.1%
・24M新規椎体骨折はI群 21/3325 (0.6%) vs C群 84/3327 (2.5%)で75%のリスク減
・有害事象の発生は両群で均衡

【批判的吟味】★★★★★
NEJMは臨床研究者の夢です。結果をNNTでもみてみたいとか、もうちょっとセッティングの情報とか本文中に載せて欲しかったという意見は鼻にもかけられないでしょう。サンプルサイズも半端ないし、製薬会社の全面的な後押しがないと絶対できません。ただただ桁違い…RoB2はもういいでしょう。追跡割合も90%超えてそうだし、ProtocolはNEJMのHPから探せ!とか言われたら何も言えません。アメリカ贔屓いくらかあるんでしょうけど、そうじゃなくても載るなぁきっと。

【コメント】
これは世界的にかなり売れそう(ってもう3年以上前か)。確かに効果はありそうなんで、あとは長期成績で想定外の有害事象でないかですね。Sclerostin止め続けて大丈夫なんでしょうか?コスパも気になるし。あとはCKDのサブグループ解析早くでないかな…

ちょっと院外でお話させていただく機会があったので、関連論文を読んでみました。島根大学内分泌代謝内科の杉本前教授指揮で今年発信された第三相試験です。Osteoporos Int(2018IF3.8)掲載。

Study of twice-weekly injections of Teriparatide by comparing efficacy with once-weekly injections in osteoporosis patients: the TWICE study.

研究疑問  :テリボン半量2回/Wは1回/Wに劣らずより安全か?
研究デザイン:非劣性RCT
セッティング:国内92施設

P 65歳以上の骨粗鬆症患者 553人
I  テリボン28.2μg自己注2回/W+プラセボ   皮下注1回/W
C プラセボ 自己注2回/W+テリボン56.5μg皮下注1回/W
O 主要:腰椎BMD変化割合(1Y)
   副次:大腿BMD変化割合、骨折発生、骨代謝マーカー、有害事象など
*両群ともにVD、Ca投与
*最小化法(年齢・性別・腰椎YAM値で層別)でランダム割付
*先行試験(テリボン vs プラセボ)の効果量の1/3を非劣性マージン(-1.6%)
*主解析の対象はFAS、比較は単純なt検定

骨粗鬆症は切実な問題で、テリボンが効果あることがわかっている。けど嘔気で継続が難しいことがある。量を減らせば嘔気が減るので、量を半分にして2回/Wにしたらどうか?健康な閉経後女性では検証できたので、今回は骨粗鬆症患者で試験してみました!という研究。1Y時点でのI群の腰椎BMD変化割合は+7.5%、変化割合の群間差は1.3%(0.4, 2.3)で非劣性マージン-1.6%を超えていた。有害事象もI群で少ない(40% vs 56%)との結果で、テリボン半量2回/Wは新たな治療選択肢になり得るとの結論。

【批判的吟味】★★★★
企業主導の第三相試験ですので、概ね文句つけるところはありません。たった半年でリクルートを終了したスピード感も驚愕です。が、細かなところがチラホラ粗いです。とくにフローチャート、図や表での全体数がバラバラで、欠測について考慮された形跡がないのがかなり痛いかと。セッティングやリクルート方法の情報がない点、アウトカムをBMD実値の変化量ではなく割合(観測値どうしの割算)の変化量にしている点は微妙ですし、変化量の差を単純にt検定するだけの解析では甘いと思います。結果も何%BMD上がった!だけじゃなく、その上昇がどれだけ臨床的に意義があるかまで論じてもらいたかった(どれだけ骨折予防効果があるかピンとこないので)。RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Some concerns
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Some concerns
4. 評価者の盲検化 Low risk
5. 選択的な報告 Some concerns

と、RCTとしての質はまぁまぁかと。15%前後の脱落はやむを得ないとして、そこをスルーするのはやっぱり痛い。あと隠蔽化の詳細がないですし、プロトコル(恐らくしっかりしたものがあるはず)へのアクセス方法が明示されていないのも勿体ないです。

【コメント】
まぁテリボン半量2回/Wは悪くない選択肢かなと思いました。ただしつこいですがこの研究だけでは実際にどの程度ご利益があるかわからないので、使用経験を追証しないとダメでしょう。あと細部にこだわればもっとインパクトがあったと思いますし、格としてはOsteoporos Intより発信力のある雑誌に載せるべき研究かと。CONSORTとかROB2知ってる人居るだけで違ったのでは…やっぱり勿体ない...

最近気にしている脊椎体幹装具について網羅的検索をかけたところ、リハビリ系のcore clinical journalであるArch Phys Med Rehabil(2017年度IF2.7)に、Systematic Reviewが載っていました。英オクスフォード大学病院のPT科(非医師)から2016年の報告です。

Spinal Orthoses for Vertebral Osteoporosis and Osteoporotic Vertebral Fracture: A Systematic Review.


臨床疑問  :脊椎骨粗鬆症に対して脊椎装具は有効か
研究デザイン:Systematic Review
セッティング:全世界

P 骨粗鬆症患者(椎体骨折の有無を問わず)
I 脊椎装具使用(+その他の介入)
C 脊椎装具非使用(+その他の介入) 
O 主要:脊柱変形、疼痛、脊柱支持筋力、身長、活動性、身体機能、QOL
      副次:合併症、装着コンプライアンス

いわゆるコルセットの使用を検討する際に、実はどの型(硬性、半硬性、軟性)を、いつからいつまで使用するか何もわかっていない!ので調べてみました、という論文。結果は「質の高い研究は皆無」なので「結果の統合はできません」というありがちかつ寂しいもので、結局(怪しい)RCT8本と非RCT4本の「narrative」レビューになっています。だからタイトルが椎体骨折じゃなくて脊椎骨粗鬆症という微妙なものなのか。まとめますと

・硬性コルセットに合併症が多い
・脊柱変形に効果があるかはわからない
・TLO装具が筋力、疼痛、姿勢とQOLに効果がありそう(3論文)
・WKO装具がバランスに効果がありそう(1論文)

で、結論は「急性期の椎体骨折」についてのエビデンスが足りないと。何も得られるものはない反面、「何もわかっていないことを示した」だけでも次の研究につながる意義がある論文だと思います。

【批判的吟味】★★★★
研究の質について述べますと、PRISMAガイドラインCochrane reviewの手法に準じ、プロトコルの時点でPROSPEROに登録している。データベースもPubMed、MEDLINE、EMBASE、AMED、CINAHL、PEDroとCochrane Libraryを用い、検索式も付録で載せている(EMBASEだけ←ホントに全部検索したのか?)。組み入れ研究も限定し、ルールを守ったなかなかちゃんとしたレビューのよう。細かな定義はバキバキのCochrane Reviewとくらべると全然緩いですが(お前ごときが言うな、という声はさておき)。

【コメント】
正直な感想は、どうせ「脊椎領域のエビデンスは少ない」ので、「そこそこちゃんとSRやろうとしたけど、いい論文ありませんでした」という研究なら、小知恵ついて時間とれれば量産できそうだなと。余裕ないのでしませんけど、、というか、体幹装具についてちゃんとした研究しないといけませんね。

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