二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:ひとり抄読会(脊椎) > 脊椎総説

お世話になっている某大学の先生からこんな治療法があるよ!と硬膜外癒着剥離術(PEA)のご紹介があり、後日取扱い業者の方の説明がありました。局所麻酔下に仙骨裂孔から写真のようなカテーテルを挿入し、患部に生食を通したりステロイドを流す治療で、韓国では相当普及しているとの事。なら成績はどうなんだろう?と文献を探してみました(我ながら成長したなぁ…)。すると関連文献はPain Physician(2019IF3.3:麻酔科領域では10番目ちょっとの雑誌)の独壇場。ちと旧いですがガイドラインにも載っているようでしたので、PEAのパート(1.2.2.1 Percutaneous Adhesiolysis; S96-S100)をざっとまとめます。
PEAカテーテル

An update of comprehensive evidence-based guidelines for interventional techniques in chronic spinal pain. Part II: guidance and recommendations

<効果>
・PEAは術後遺残疼痛や腰部脊柱管狭窄症(LSS)に効果的であるとされ、肯定的なSystematic reviewがいくつかでている。
・具体的には術後遺残疼痛についてのRCTが4つ(質は高が3、中が1)、LSSついてのRCTが1つ(質は高)と観察研究が1つある。USPSTF基準で評価すると、術後遺残疼痛に対するPEAの効果はfair、LSSに対する効果もfair.

<合併症>
・最多なのは硬膜損傷で、頭痛が生じブラッドパッチが必要になることがある。
・次に多いのは、麻酔による脊髄ブロック下の高圧生食による神経損傷で、予防のために高圧生食注入30分前から麻酔が効きすぎていないか観察することが必要。
・一過性の麻痺の報告もある。
カテーテル破損の報告もある。その場合抜去せず留置したままにする。主因はスタイレットをしっかり挿入しないままの操作で、術者の経験に左右される。
・血腫と感染の可能性もあるが、血腫を報告した文献はない。
・全体的に合併症は軽微で管理可能であり、熟練した術者が行えば安全な手技。

<推薦>
PEAは術後遺残疼痛や保存的加療が無効なLSSに対し施行が推薦される。

【コメント】
既存エビデンスの結果はまとまってなかったので割愛しますが、エビデンス総体の質はfairとの事。GRADEじゃなくてUSPSTF基準?はちょっとピンときませんが。個人的にはIF3前後の専門誌に載っているRCTやSRは際どい気がするので、推奨を鵜呑みにするのは危険かと。このガイドラインがでた後カテーテルの素材や手技を比較したRCTなども出ているようなので、今後発展していく可能性は感じます。本邦でも

 K188-2 硬膜外癒着剥離術 11000点

と保険収載されていますし。ただし、使用する機材(使い捨て)が10万円くらいするので、現状で病院側に経済的なメリットはあまりない様子。だからか、Webで調べると1泊2日で自由診療90万円!という案内も発見…少し闇も感じました。五月雨の記載になってしまいましたが、するしないは別として知識は持っておいた方が良さそう。大々的に取り入れるかは質が真に高いRCTを待ってからでしょうか。既存のRCTちゃんと読んでないですけど…読まなくてもだいたい想像が…

固定術後数ヶ月皮疹に悩む方がいるというハナシを聞き、改めて固定術する際の金属アレルギーについては勉強しておかないと!と思い文献を渉猟してみました。

どのくらいの頻度?
どういう症状?
術前にわかる?
発症したらどうすればいい?
インスツルメントは抜去すべき?

など知りたいことは山ほどありますが、解決するエビデンスは見つからず…とりあえず一番参考になりそうな総説をナナメ読みしてみます。Bone Joint Journal(旧JBJS Br; 2018IF4.3)の2016年のレビュー。

Allergy in total knee arthroplasty: a review of the facts

<はじめに>
・低アレルゲンインプラントの販売が盛ん
・金属過敏は10~48%と報告
・金属インプラントアレルギーのエビデンスは不足
 - 症例報告レベルのエビデンスしかない
・TKA後の痛みと金属アレルギーの関連が示唆
・再置換原因の~5.9%が金属アレルギーとの報告
・よくわからないのでまとめました

<アレルギーとは>
・通常は無害な物質に対する過剰反応
・過敏症の典型はⅠ型反応
 - 抗原とIgEの架橋による即時反応
 - これは金属では起こらない
・Ⅳ型反応ならあり得る
 - 過去の感作を背景にTリンパ球を介した遅延反応
 - 金属の摩耗や、体液との接触によるイオン発生で起こるかも

<金属による局所反応とインプラントの緩み>
・皮膚反応より、金属と骨の境界反応が重要
 - 炎症により破骨細胞が活性化され骨融解
・TKA後再置換症例で、患部にTリンパ球が集積
 - 金属アレルギーによる緩み?かはわからない
 - 痛みでアレルギーを疑い再置換するのは変態

<金属アレルギーの診断>
・診断の必要条件は
 1)T細胞が増えている
 2)パッチテストが陽性
 3)インプラント交換による炎症の鎮静化
・なので診断は実際不可能
・上記を満たしても交絡が多く十分条件にはならず

<金属過敏者に対するインプラントの選択>
・過敏に関係なく標準インプラントを用いるべき
・疑わしい素材は使わないとの意見もあるが
・金属過敏は存在するが、アレルギーなのかは不明
・エビデンスが全然たりない

【コメント】
というわけで、金属アレルギーについてはほぼほぼ何もわかっていないようです涙。結局人工関節領域では、パッチテストの結果でインプラントは変えないのが標準と。金属過敏のリスクより、耐久性をとるようです。ただ脊椎固定術で使うインスツルメントはちょっと事情が異なります。材質のバリエーションが少ないので選択の余地もないですし…パッチテストが陽性なら固定せずに除圧で凌ぐ?ケージは非金属にして、最悪スクリュー抜去できるようにする?悩みがつきません…

ちょっと仕事でシュモール結節(Schmorl's nodes:SN)を調べる必要があり。この際教育的な論文を読む事にしました。簡単に渉猟した範囲ですが、Neurosurg Rev(2018IF2.5)に載った総説が一番良さそう。

Schmorl's nodes: current pathophysiological, diagnostic, and therapeutic paradigms

研究疑問  :SNにおける最新の知見は?
研究デザイン:文献レビュー
セッティング:全世界

Introduction
・SNは病理医であるSchmorl CGが1927年に報告
・男、T7-L1、椎体尾側/中央に多かった
・周囲には軟骨細胞と骨管構造の増生がみられた
・高さは1-9mmで、隣接椎体にも鏡で映したかのように発生することがある
・無症候性の腰椎MRIの19%にみられた
・病理解剖で~73%にみられた
・遺伝的素因、椎間板変性(DDD)との関連が示唆

Schmorl's nodes and Modic endplate changes
・1988年にModicがDDDに伴う終板変性をⅢ型(Modic change:MC)に分類
・MCはDDDの経年変化を反映してⅠ型からⅢ型に進み、腰痛と関連する
・でもMCとSNの関連はわかっていない
・多発SNとScheuermann's(ショイエルマン)病との関連が示唆
・大きなSN、拡大するSNはMC様の骨髄浮腫を伴うことが多い
・MCⅢ型はSNの表現型の1つかもしれない
・MCⅢ型に外傷など他の要因が加わってSNが発生するのかもしれない

Pathophysiology of Schmorl's nodes
・終板周囲の血管が遺残し、終板が脆弱となり、SNの誘因になるとの仮説あり
・SNは虚血の最終段階であるとの仮説もある

Clinical presentation
・腰痛
 - 骨髄浮腫を伴うSNなどに限定して関連するとの見解
 - 拡大するSNは骨折を起こしやすいかも
 - 侵入する髄核による免疫応答や、血管増生によるとの仮説あり
・骨粗鬆症性骨折
 - 小児期の骨折によりSNが発生するとの仮説
 - 一方、発達期の終板ストレスで発生するとの仮説もある
 - SNは初期の終板骨折を反映するとの考えもある
 - SNの57%が急性腰痛で発症したとの報告
 - また、骨髄浮腫を伴う腰痛の43%にSNが発生したとの報告
 - SNは外傷性に発症するとの見方が強い
 - いずれにしろSNは骨折と関連ありそう
 - SNがある高齢者は骨粗鬆症の評価と治療をすべき

Treatment of Schmorl's nodes
・椎体形成
 - 8割近くのSNに効果ありとの報告(ただし骨髄浮腫を標的に行うべき)
・固定術
 - 椎間板造影陽性のSN20/21人に効果があったとの報告
・その他
 - インフリキシマブや交通枝ブロックが効果あるとの報告

Conclusions
・多くのSNは無症候だが、免疫応答や骨脆弱性により症候性となるものがある
・症候性や他の所見を伴うSNに留意し、治療が奏功する可能性を知るべき

【コメント】
これまであまりSNは気にしていませんでしたが、先人たちは解剖や力学実験など素晴らしい仕事されています。我々臨床研究者はデータから真実に迫れるよう精進しなければ。それにしても疲れた...1時間半もかかってしまった涙...てかSNが先天性疾患とかよく言うわ...

The BMJ(最新IF23.3)で「Spine」「Research」で検索すると125件もあるじゃないですか!みてみると「Research News」なども含めての数。なんだ…と読み飛ばそうとしたらまたVPをディスる記事が。すごい逆風…

Research News Vertebral augmentation in osteoporosis: common procedures for spinal fractures show no benefit

ざーっと意訳すると

 今年1月のJBMRのレビューでVPはもはやプラセボとかわらないと報告された。
 VPは年間3万件も行われているけど、プラセボに優るってエビデンスは殆どない。
 「もうVPを第一選択にするのはやめよう」
 最初は調子よくても、時間が経ったら保存とかわらない。
 アメリカ骨代謝学会のボスも「VPが特効薬ではないことがわかった」と言っている。
 この分野には多くの研究があるが、質が低すぎてひどい。
 だから隣接骨折がほんとに起こるかどうかもわからない。
 装具や運動療法も効果があるかどうかわからない。
 唯一自信もって言えるのはVPやKPを標準治療にするのはやめるべきだということ
 有害事象を検出できるくらいの大きな研究以外もう不要
 それでもVPするなら、「標準治療ではない」ことをちゃんと患者に説明すべき
 この結果にがっかりすることはない、いい骨粗鬆症治療薬があるから!
 治療より予防に目を向けよう!

いかんですよ。
放射線科医がだしたネガティブな研究結果を受けて、内科医が外科医をディスる構図ができています。そんなによってたかってVPを全否定しなくても…効果がある対象は必ずいます!いるはずです…

たしかにBKPのシステム高すぎますけど…
エビデンスの暴力だー

そら予防に目を向けないかんですけど、骨折したら外科医の出番もあるでしょ。
こじれたら超タイヘンなんですよ…

生産性ない老人に医療費使うなって?
立ち上がれ脊椎外科医…
みせてやれ質の高い研究…





国際的な世論はアンチ椎体形成術になっています。先日脊髄病学会で大阪市大の星野先生がDeath Knell for Vertebroplasty(椎体形成術に鳴る弔いの鐘)を紹介されていました。昨年BMJに掲載されたVERTOS Ⅳの結果と、数年ぶりにup-dateされたコクランレビューを引用して、「椎体形成術を標準治療にするのはもうやめよう」と呼びかけた記事です。それを受けてか、雑誌によっては椎体形成術に関する論文というだけで「そんな手技もはや不要」とキックされることまであります。

医療費削減が喫緊の課題である昨今、BKPのやりすぎは絶対悪でしょう。器材だけで約40万円と非常に高額です。手技も簡単で敷居が低いですし、「こんなに楽なの?」と患者にはまず感謝され、宣伝効果も高い。巷には対象となり得る椎体骨折患者があふれており、制限をかけないことは倫理的にも経済的にも大きな問題だと思います。ただし「BKPは悪」という論調には臨床医として大きな違和感があります。

BKP>保存加療の患者は間違いなく居ます。寝返りも打てなかった高齢者が術翌日から離床できるようになることはよく経験しますし(BKPせずに同じように離床できたとは思えない)、骨折がこじれて神経症状のため動けなくなった患者を初見することが少なからずあります(もし早期にBKPしていれば・・・)。

というわけで、大切なのは「BKPの適応を厳格にする」ことであって、「BKPの善悪を問う」のは全くナンセンスです。そのあたりはエビデンスと実臨床のギャップが非常に大きい。このギャップを埋めるには、臨床医が良質のエビデンスを出していかないといけません。ちなみにVERTOSⅣもコクランレビューも方法論的には非常に厳格な素晴らしい論文であることは間違いないものの、臨床医目線でみると決して決定的な論文ではありません。どこに穴があるか次回以降解説していきます。

こじれた椎体骨折



 

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