二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:型別資料(RCT) > お手本論文

私が疫学の世界に飛び込む前に勤務していた病院の、当時研修医先生が私の怪しいキャリアを参考に大学院に来てくれることになりました涙。立場的に私がどれだけ関与できるかはわかりませんが、彼が幸せになれるよう一緒に勉強できたらと思っています。というわけで、彼の専門領域のいい論文をみてみることに。NEJM様(2021IF176.1って…)なので間違いないでしょう。

A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest

研究疑問  :院外心停止にepinephrineは効果あるか?
研究デザイン:RCT
セッティング:英国5つの国民保険救急サービス
*2014.12月~2017.10月

P 院外心停止患者 8014人
I  非経口エピネフリン 4015人
C 生食 3999人
O 主要:30日生存
副次:退院時神経学的予後良好(mRS3以下)
*mRSは0無症状、3は中等度の障害(歩行は介助なし)、6死亡

エピネフリンには細動脈収縮作用があり、心肺蘇生中の大動脈拡張期圧高め、冠血流を増大させることで予後を改善することが期待される。一方で、心再停止や血栓傾向により脳虚血の助長も懸念される。観察研究のメタアナリシスでは心拍再開は増えるが神経学的予後は悪いとされているため、大規模なRCTが企画された。

【方法の主なところ】
プロトコルはResuscitation雑誌で公表
 - NEJM誌内にも公表(全58ページ)
・欧州の法律に則り、書面同意は蘇生後まで延期
 - 蘇生後に、更なる追跡のための同意取得
 - Ptに能力がない場合は法定代理人から取得
・NIHから資金提供、法的にはWarwick大学がスポンサー
 - データ管理を請け負い
 - データ収集・分析、原稿執筆には一切関与せず
・組入/除外基準は以下
 - trialで訓練された救急隊員によって蘇生された成人患者を対象
 - 妊娠、アナフィラキシー、喘息、既にエピ投与後を除外
 - 一部の機関では地域プロトコルに準じて外傷性も除外
・割り付けは以下
 - 初回蘇生(CPRと除細動)が不成功の場合に割付
 - 10本の充填すみシリンジが入ったパックをランダムに割付
 - 最小化法で1:1に中央割付、割付者もconceal
・隊員がウツタイン式でデータ入力、予後も評価
・入院後ケアは定義されていないが、国のガイドラインを推奨
・サンプルサイズはリスク比1.25を検出するために8000人と試算
・第三者が3ヶ月毎にモニタリング
・解析対象はITT
 - 調整あり/なしの固定効果モデルを使用
 - 調整は年齢、性、到着時間、治療開始までの時間
   心停止の原因、初期心拍、目撃者有無、bystander CPR
 - 詳細は難し過ぎるのでパス…
・サブグループ解析は以下
 - 年齢、心停止の原因、初期心拍、目撃者有無など
・欠測をbest-case、worst-case、多重代入で埋めた感度解析も施行

【主な結果と結論】
・基準を満たした8103人を割付
 - そこから除外基準がわかって87人が除外
 - パック番号紛失で2人を更に除外
 - 最終的に8014人に薬剤投与
 - C群28人(0.7%)、I群35人(0.9%)が追跡できず
・I群 vs C群の各比較結果
 - 30日生存 130人 (3.2%) vs 94人 (2.4%) OR 1.39 (1.06, 1.82)
 - mRS3以下 87人 (2.2%) vs 74人 (1.9%) OR 1.18 (0.86, 1.61)
 - mRS4以上 39/126人 (31%) vs 16/90人 (17.8%) 

で、エピネフリン投与は有意に30日生存率を向上するが、生存者の多くが重度障害者となるため神経学的予後良好に有意差はつかなかった、との結論

【批判的吟味】★★★★★
非の打ちどころのない、すごい研究…院外心停止は同意取得とかしてる場合じゃないので同意不要(全員参加!)ということが法定されているんですね…蘇生後に拒否した人もざっとみて書かれていなかった模様。自分でサインできる人は「助けてくれてありがとう」でサイン、サインできない人は法定代理人がサイン、ってことで完投できたんでしょうか。RCTの弱点である選択バイアスが入る余地のない、最強の研究です…RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Low risk
4. 評価者の盲検化 Low risk
5. 選択的な報告 Low risk

RCTの質としても非の打ちどころがないです。追跡しやすい短期アウトカムなので、欠測率も両群1%以下だし…文句言うとしたら「神経学的予後良好」がmRSみたいな緩い尺度でええんかい?ってことでしょうが、じゃあ他にあるのか?と言われたら思いつきません。人種的にアジア人に当てはまるのか?って言っても響かないだろうなぁ。国家挙げての大研究でした。だからどうしなさい!という誘導的な記載を避けて、結果だけを結語に書いている点もさすがです。

【コメント】
雑に解釈すると、生存は増えるけど寝たきりも増える、ってことですね。寝たきりになってしまった人(というよりその家族)の多くは、もしかしたらそのまま逝かせてやりたかったと思うかもしれません。医療経済的にも大きな負担でしょう。でも約4000人中10人程度の少数ではありますが、もしかしたら、死んでいたかもしれないところエピのお蔭でmRS3以下で生存できた方がいらっしゃるかもしれません。その少数の方にとっては神の薬です。この非の打ちどころのない大規模研究の結果はどう臨床に反映されているのでしょうか。お恥ずかしながら院外心停止患者の診療機会がなくなってはや6年、当時は全員エピいってましたが、今もそう?全員エピいかない?非常に興味深いです。

本日は私の人生の転帰ともなった臨床研究デザイン塾でした。コロナ渦の影響でWeb開催になったのですが、これはこれでコンパクトにまとまっていい会だなぁと改めて刺激をいただきました。私の班の皆さんもそうだったのですが、やはり臨床医が一番調べたいのは「介入の効果」だなと再認識。理想としてはRCTでしょうが、費用面ほか高根の花、というか非現実的。じゃあどうしよう?というのが切実な問題です。RCT頑張っても選択バイアスは問題ですし。個人的には前向きコホートしかないんじゃないかな?と思っています。ので、今回はお手本として「介入の効果をみる前向きコホート」を読んでみます。JAMA様なら間違いないでしょう!

Surgical vs nonoperative treatment for lumbar disk herniation: the Spine Patient Outcomes Research Trial (SPORT) observational cohort


研究疑問 :腰椎椎間板ヘルニア(LDH)に手術は有効か?
研究デザイン :前向きコホート
セッティング :Spine Patient Outcomes Research Trial(SPORT)
*RCTとRCT拒否者で構成された前向きコホートで構成
*米11州13施設

P LDHによる根症状(6W以上)がある患者
I 手術
C 保存(指導、PT、NSAIDsなど)
O 主要:SF-36(BP/PF)、ODI(3M, 6M, 1Y, 2Y)
  副次:治療成功感、就業、満足感、坐骨神経痛

SPORT(RCT)におけるITT解析では手術と保存に差が出なかった。でもRCTは一般化に問題があるし、介入が定期手術なのでクロスオーバー(手術群⇄保存群)がITT解析の結果を歪める。ので、SPORTでは前向きコホート研究もするんですよ!という研究。

【方法】
・細かな研究計画はプロトコル論文参照
・看護師が適格者を抽出し、RCTか観察研究への参加を提案
 - 観察研究を選んだ患者は医師を受診
 - 手術かそのまま保存かを自己選択
・手術はopen diskectomy
・坐骨神経痛の程度はSciatica Bothersomeness Indexで測定
・アウトカムはベースラインからの変化と改善者の割合として比較
 - 保存群は割付時をベースライン、手術群は手術直前をベースライン?
 - 測定日がズレた場合は、線形補完した平均値を使用
・解析モデルには欠測とアウトカムに関連する変数を投入
 - 複数測定の影響に変量効果モデルを使用

【結果と結論】 
・潜在適格者1991人中1244人がSPORTに参加
 - 743人が前向きコホートに参加(手術希望521人/保存希望222人)
・参加者の97%が1回は測定でき、解析に組み入れ
 ‐ 各測定時点での測定割合は82‐89%
・手術⇄保存のクロスオーバーで結局手術528人/保存191人
・保存治療の内訳以下
 - 指導92%、NSAIDs58%、麻薬系35%、PT43%、ブロック38%
・手術合併症は以下
 - 輸血2人、硬膜損傷2%、再手術1年7%2年9%(半分が再発で)
・主な効果は以下(手術 vs 保存)
 BP変化量 (3M) 40.9 vs 26.0 差14.8 (10.8, 18.9)
 PF変化量 (3M) 40.7 vs 25.3 差15.4 (11.6, 19.2)
 ODI変化量(3M) -36.1 vs -20.9 差 -15.2 (-18.5, -11.8)
 BP変化量 (2Y) 42.6 vs 32.4 差10.2 (5.9, 14.5)
 PF変化量 (2Y) 43.9 vs 31.9 差12.0 (7.9, 16.1)
 ODI変化量(2Y) -37.6 vs -24.2 差 -13.4 (-17.0, -9.7)

このように、手術群の方が改善がよかった!が、自己申告のアウトカムなので解釈は慎重に行うべきであるとの結論。

<向学のためにlimitationのまとめ>
・適格基準が厳しいので、結局一般化に支障
 - 6W我慢できなかった人が含まれていない
 - でもガイドラインでは6W待つわけだから影響は小さいでしょ
・保存的加療は多様すぎる
 - 一部無効だったり有害だった場合に手術の効果を誇張
 - でもだいたいどの治療も効果あるとされている
・欠測が14~18%あった
 - でも複数の感度解析で結果が覆らないことが示された
・盲検化されていないうえに、アウトカムが自己申告
 - 後療法への意欲、期待、変化への気づきなどが結果を修飾
・すべての患者や術者の要因を考慮することは不可能
 - 未測定交絡がどの程度結果に影響しているかは不明

【批判的吟味】★★★★★
どこかでSPORTの枝研究読んで、もう一つだな…と思っていたのですが、本家はすごかったです。もう15年前にこんなに丁寧な研究がされていたんですね、そりゃJAMAに載るのも納得。RCTと対じゃなく、この研究1本だけなら無理だったでしょうけど。思いつくLimitationは全部書かれていたし、突っ込み思いつきません。お手本にするには交絡や欠測の取り扱いの詳細がなかったのが物足りなかったのは残念ですが、プロトコル論文には書いてるのかな。てかプロトコル論文がSpineに載るってすごい…

【コメント】
PubMedでSPORTをひくと100以上の文献が…これだけ大きな研究に関われたら臨床家/研究者として一生の仕事になりますね。それにしても「非盲検化」「アウトカム自己申告」は相当手ごわい問題…結局1/3が研究参加自体を拒否しているので、選択バイアスも結構ありそうだし。でもこれ以上どうしたらいいんでしょうか…バイアスも含めて治療効果!患者良くなってたらそれでいいじゃん!という考えもあるでしょう。でももし結果がバイアスからきてるなら、手術してなくても良くなってたじゃん!ということになるんですよね。手術の純粋な効果をみるのはホントに難しい…(てかシャム手術しないと無理?)

ちょっと論文が読めそうなスキマ時間ができたので、EAをcheckしてみます。脊椎関連で面白そうなのはないな~とみていると、NEJMに慢性硬膜下血腫(ChSDH)のRCTが!なぜか脳外科なのに関注とかしている私ですが、たまにChSDHの相談受けることもあるので臨床的意味合いでもちょっと読んでみます。

Trial of Dexamethasone for Chronic Subdural Hematoma.

研究疑問  :症候性ChSDHにデキサメサゾンは効果あるか?
研究デザイン:RCT
セッティング:英多施設

P 症候性のChSDH 748人
I  デキサメサゾン8㎎×2/Dをテーパリングしながら2W
C プラセボ
O 主要:mRS ≤3(6M)
副次:mRS(退院時/3M)、死亡、手術、GCS、
      Barthel Index、EQ-5D-5L、入院期間、合併症(高血糖など)
  第三:術後再発

ChSDHの穿孔洗浄術は2030年には米国で最多の脳外科手術になる見込みであるほど多いが、10~20%再発する。デキサメサゾンは再発予防や保存治療として有効性が期待されているが、エビデンスが限られているのでちゃんと調べてみました!という研究。

【方法の主なところ】
・プロトコルはTrialsで報告
 - 続いて7施設100例でパイロットRCT(SciRepで報告)
 - 安全性が担保されたのでそのまま本RCTに突入
・同意できない人からは法的代替者からIC取得
 - 代替者がいない場合は独立した医療従事者が代行
・手術を行うかどうかは治療者の判断
・デキサメサゾンのテーパリングは
 1-3D 8mg×2、4-6D 6mg×2、7-9D 4mg×2、10₋12D 2mg×2、13D14D 2mg×1
・退院後の内服の有無は処方歴と患者日記で追跡
・施設で層化した変動ブロック法で1:1に割付
・サンプルサイズは脱落15%のみつもりで750例と試算
 - mRS ≤3のベース割合80-85%に8%ptの上乗せ効果を期待
 - これは検出力81-92%
・解析はmITT集団
 - 参加拒否者、脱落者を除外
・主解析は検定
 - PerProtcol集団で感度解析

【結果と結論】
・「assessed for eligibility」は2203人
・対象の94%が手術を受けた(ので、手術回避効果は検証できず)
・mITT集団680人(91%)を解析
・主なアウトカムは(I群 vs C群)
 mRS ≤3(6M) 83.9% vs 90.3% 差-6.4%pt (-11.4, -1.4; p=0.01)
 再手術 1.7% vs 7.1% 差-5.4%pt (-8.7, -2.5)
    重度合併症 16% vs 6.4% OR 2.49 (1.54, 4.15; p<0.001)

で、参加者のほとんどが手術を受け、デキサメサゾンの使用は経過不良や合併症を増やすが再手術は減らしたとの結論。

【批判的吟味】★★★★★
ケンブリッジ大の臨床試験チームがバックについた、英国をあげた多施設研究ということで、非常に丁寧に遂行されたさすがNEJM!でした。だいぶん割愛しましたが、これでもか!というくらい方法もしっかり書かれていて、自分でRCTするときは是非もっと細読して参考にしようと思った次第です。これだけしっかりした結果出てるのに、結局デキサメサゾン使うの?という結論は一切触れず、読者の判断に任せる、というスタンスは素敵すぎる…RoB2

1. 割付けの隠蔽化 Low risk
2. 割付けの盲検化 Low risk
3. アウトカムの追跡 Some concerns
4. 評価者の盲検化 Low risk
5. 選択的な報告 Low risk

RCTの質としてはかなり高いかなと(じゃないと今の時代NEJMには載りませんよね)。欠測が約10%いたことを除いては完璧だと思いました。その欠測も対象が対象(高齢者で登録時にChSDHで症状出てる人)なのである程度は仕方ないでしょうし…Low riskでもいいかも。Flow chartの始まりが包含基準満たした対象じゃなく、その前の「assessed for eligibility」になっている真面目な研究初めてみました。

【コメント】
ChSDHにデカドロン使ったら手術回避できるかも?と期待しましたが、結果からすると使わない方が良さそう。だから臨床的意義も含めEA評価は5/7なんでしょうか。それにしてもいい研究…日本の脳外科も大学主導でこういう研究企画して欲しいです(場末の民間病院だと患者逃げちゃいますからそもそも不可能)。ただ、臨床研究の専門家(とガチの生物統計家)が入らないと確実にコケるので、そこが求められる土壌作りから涙…その前に自分が「疫学者」を名乗れるようにならないと…

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