二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:臨床研究ことはじめ > よもやま話

昨日のMCRサマーセミナーで、日本を代表する研究者である某教授のご講演が衝撃的でしたので、提示されたデータを紹介させていただきます。

ここ数年、年間20本ほど英語論文の査読をしています。そこそこ名の通った雑誌たちですが、Topジャーナルではないので怪しい論文が多く届きます。その殆どが中国からですので、誤解を恐れずに申しますと「中国はめちゃくちゃやな」と思っておりました。でも、めちゃくちゃな論文も多い一方、インパクトのある論文も実は多いようで、アカデミックな領域で中国はもはや世界のリーダーになりつつあるようなのです。

で、まずは年代別の出版論文数です(私が気になる国をpick-up)。
年代別論文数年代別Top論文数
1999ー2001年の時点では、日本の論文シェアは米国に次ぐ世界2位でした。Top10雑誌に限定した論文数でも、英国とドイツ(図にはありません)に抜かれるも4位に。ところがそこから20年で中国が急速に発信力を高め、2018ー2020年には論文数でもTop10論文数でも米国を凌駕し世界一になっているのです。一方日本は論文数は5位に踏みとどまっているものの、インドに抜かれ韓国に迫られています。Top10論文に至っては韓国にも抜かれ12位に。
Top10ヵ国の論文数Top10ヵ国のTop10論文数
最新の論文数のTop10ヵ国と、Top10論文数のTop10ヵ国の図がこちらになります。論文総数が5位で、Top10論文数が圏外ということは、発信する研究はそれなりに多いのに、いい雑誌に掲載される論文が少ない、という悲しい事実がみえてきます。某教授は「これまで頑張って研究してきたが、より悪い状況で次の世代にバトンを渡さなければならない」という内容をコメントされていました。バトンを受け取るのは我々世代です。

完全な想像ですが、中国の躍進は「研究することによるメリット(もしくはしないことによるペナルティー)」と、「潤沢な研究資金」なんじゃないでしょうか。日本では研究するメリットが少なすぎます。民間の医師が、一流大学の教授の倍報酬を得ている…そして自由に使える時間は後者の方が断然少ない。そして研究しようにも、研究資金が充足していません。日本経済の閉塞感からすると、この状況が改善するのは当分期待できそうにない…

じゃあどうすればいいんでしょうか。対抗策は「教育」?臨床研究において、「これまで当たり前のように行われてきたやり方」が実は間違っていることが多いです。でもそれがわかる人は少ない(とくに脊椎外科領域)。より適切な臨床研究の手法を学ぶ機会が増えて、いい臨床研究が増えて、状況が改善する方向に向かえばいいのですが。でも結局研究や教育に使える時間と、その時間に対する報酬が確保されないとやる人増えないよなぁ…

臨床研究を初めてもう4年半、成果が出ず自分の未熟さに嫌気がさしておりましたが、ようやく少しずつ実を結んできました。これまでになんとか原著4本acceptしていただいたのですが、とくにSpineに載った1号Eur Spine Jに載った6号には研究者生活を変える即時効果がありました。

【1号論文の効果】
1号は脳外科総会のシンポジウムに採択していただいたのですが、発表はメディカルトリビューン誌の取材を受け記事にしていただきました。そして聞いてくださった多くの先生方からご連絡をいただき、さらには2020年度の脊髄外科学会調査にお声がけいただきました。その流れで第36回脊髄外科学会では、ポスター座長すらしたことなかった私がシンポジウムのマネジメントや教育セミナーをお任せいただき、ひいては恩師の福原教授にご講演いただく機会まで。学会後は統計委員・学術委員を拝命し、学会調査に継続して携わらせていただいております。ちなみに昨年完了した学会調査の結果は8号論文として執筆中です。また1号の経験は臨床研究関連の書籍に寄稿させていただくことになりました。

【6号論文の効果】
6号は現在投稿中の2号(第10回MIST学会Award)を受けてお声がけいただいたMIST学会調査の結果報告です。その後第11回MIST学会シンポジウムのマネジメントをお任せいただくことになりました。また、メディカルトリビューン誌の取材を受け、学会でのシンポジウムにも取材に来ていただける雰囲気に。恩師の放射線技師長と数年ぶりに連絡を取り合ったり、知人を通じて厚労省の方と意見交換したり輪が広がりつつあります。今後Webセミナーをさせていただいたり、プリマリアに寄稿させていただくことにもなりました。そしてきたるSMISS-APではAward候補に選出していただきました。

論文を書くのはなかなか大変、というより論文を書くところまで研究を持っていくのがとても大変なのですが、頑張ればちゃんと形になりますし、有難いことに形になれば何らかの形でご褒美というか、オモシロイ話がやってくることを体感しています(お金は逆になくなっていきますけど涙)。私は整形外科医ではないですし、医局にも属してないですし、というか場末の民間病院のしがない一勤務医なのですが、研究成果に身分は関係ないようです。宝くじは買わないと当たらないし、論文も書かないと次につながりません。正直ツライですが、やり甲斐は半端ない。臨床面でサポートしてくれるN先生をはじめとした仲間たち・家族に感謝、臨床研究デザイン学に感謝しつつ、挫けずやっていこうと思います。さぁ、次は7号のJ Urolへの投稿です!

臨床復帰して6本論文投稿して、まだ4本が成仏できずに苦戦しております。2本revision中なのでようやく希望の光がみえたかな~という矢先、「本命の予測モデル研究」のR1の審査結果が返ってきました。投稿したのは整形外科領域のTop journalです。

初回査読では、査読者2人から「素晴らしい、けど統計解析がわからないのでそこは統計家に審査の依頼を」との前向きな回答をいただきました。しかし統計家が出てくることなくReject (with resubmission possible) の判定。解析をわかりやすくしてくれたら再審査するよ、との見解でしたので、気を取り直して丁寧に回答し待つこと2ヶ月。今度は別の査読者が2人ついて、1人はノーコメントでもう1人からは以下のような内容。

① 解析方法が全体的にめちゃくちゃで説明不足
② スコアリングシステムを作りたいと早い段階で明言しろ
➂ β係数って何?算出しているのは対数オッズ比じゃないか
④ C統計量が何なのか意味不明だから説明しろ
⑤ 変数を2値変換するなら根拠を示せ
⑥ 単変量事前選抜なんか誰もしない、最初からステップワイズしろ
⑦ β係数を丸めてスコアを作るとか聞いたことない
⑧ ブートストラップとか意味不明なことするな!クロスバリデーションしろ!

Unconventional, Inefficient, jargon, *never*, frankly unnecessary...といったnegative word満載の、要するにお前キライ!という雰囲気の回答でした…判定は「Revision」で、少し前進した印象ではあるものの、ここまで引っ張ってこの回答はしんどいです。といいますのは

① 解析方法は型通りの丁寧な方法...
➂ 対数オッズ比とβ係数は同じです
④ 査読引き受けるならそれくらい知っといてよ...
⑥ 単変量事前選抜も、最初からステップワイズも抱える問題は同じです...
⑦ 型どおりの丁寧な方法です...(逆にどうしろと?)
⑧ クロスバリデーションより妥当な方法です…(以前に記事に)

って殆ど全部やん...自身の論文の弱点はわかってますから、統計家が査読に入ったらまずそこ指摘されるだろうと戦々恐々としていたのですが、まさか統計かじったくらいの人がR1で登場してディスられるなんて...俺の知らんことすな!といきなり怒っている人とどうcommunicationとればいいんでしょうか...

査読者は神様なので、基本は指示に従うべきでしょう。でも悲しいかな従えば論文の質が落ちてしまいます(この論文で博士号目指すのに、そっちが通らなくなるわ!)。「統計家枠」で登場した査読者に噛みついたら間違いなくRejectです。査読にまわる度に数ヶ月待たされるし、撤回してまた1から投稿し直すのも正直しんどいし、Top journalなので通ったら正直嬉しいし…

学べば学ぶほど、現実と理想のギャップに途方に暮れます。コツコツ実績積んで、審査する側に回って、仲間増やして少しずつ変革していくしかないんでしょうが、もう40超えているので悠長なことは言ってられません。心を無にして、前に進むしかない。

最近ただでさえキャパが低いところにお仕事引き受けすぎて、気を失いかけている間にもう4月が近づいて参りました。やればやるほど果てしない疫学の世界、臨床から離れて本来のコアバリューである「脊椎外科領域に研究デザイン学の普及」を見失わないようにしつつ、臨床も研究も前に進むしかありません。

という自己暗示はさておき、最近本当にあった怖い話を。

ハゲタカジャーナルはもう有名だと思うんですけど、知人が関わる研究で実害を受けたことを教えてもらいました。どうなったかというと

・著者が独断でハゲタカジャーナルに投稿
・著者から投稿報告を受け、共著者が確認しハゲタカジャーナルと看破
・即日投稿撤回の連絡したが音沙汰なし
・約10日で返事があり、もう査読開始したので〇〇万円払え!!

ほんまにあるんや...こわすぎる…

なんでハゲタカにやられちゃったのかといいますと
・雑誌の名前が格好いい
・IF高め

だからとの事。でもこのIFが曲者で、偽物だったようです。本来IFはWeb of Scienceでの被引用数を基に計算されるもの。でもGoogle Scholarなど、他のレジストリでの被引用数で計算するなんちゃってIFが載せられているそうです。私も最近Google Scholarに何となく登録してみましたが、古ーい日本語論文とかも全部でてきて、え?という私の実績からすると多すぎる引用数。コレならウ〇コみたいな論文とか記事載せまくって、自己引用しまくればなんちゃってIF3とかすぐ作れちゃいます…

完全に詐欺なのですが、偽IFとはいえ嘘ではない。自分で選択して自由意志で投稿しているわけなので、撤回は簡単ではなさそうです。なんせ論文を人質にとられてしまっているので、出版されでもしたら他に投稿できなくなっちゃうかも…後付けで見直すと、投稿した時点で査読料最低〇万円必要などちゃんと規定に書いてある模様。「最低」というのがミソで、事実〇倍に吊り上がったと…

対策としては
・由緒ある雑誌以外、HPにあるIFは信用しない
・というか、由緒ある雑誌以外投稿しない
・せめて名の知れた出版社にしか出さない
・投稿時は共著者にちゃんと確認をとる(オプトアウトでも)

しかありませんね。著者のはやく再投稿して楽になりたい、という心理に付けこみ、更に論文を人質にとって脅すという巧妙な手口。投稿料、審査料、掲載料、吹っ掛け放題だし、ホントよくできてます。気を付けよっと…

お恥ずかしながら相変わらず英語力が低く、論文書くときはガッツリ校正業者に出します。どこが良いかは未だによくわからないので、今のところeditage一択。すると親会社のCACTUSからResearcher Life Ambassador(RLA)に応募しないかと誘いがきました。ざーっと確認すると、どうも英語校正が割引してもらえる!?模様。どうせ利用者全員に案内行ってるんだろな~と思いつつ、英語抄録・口演原稿・論文などで相当額手出しして結構キツイので応募してみることに。面倒臭そうならやめりゃいいし、「審査して通れば案内します」とあるので多分通らんでしょ、と軽い気持ちで簡単なフォームに入力しました。

特典はいくつかあって
 ①CVに書ける (意味あるんかな?)
 ②Editageのサービスにアクセス可 (割引は?)
 ➂研究関連のAI技術を学べる (当分要らない…)
 ④教材が利用できる (そんな時間ない…)
 ⑤AIによる原稿改善サービスの利用 (効果あるの?)
 ⑥WebinarやEventでしゃべる機会 (英語の敷居高いっス)
 ⑦Eventする際に手伝ってもらえる (ちょっと先かな)
 ⑧頑張ったらご褒美 (研究資金くれるの?)

の模様。まーあまり実利はなさそうですが、毒饅頭ではないかな?という印象。で、応募してそのまま忘れてたら数日でなんと「入会案内」が!大丈夫かなと半信半疑ながら、とりあえず入会してみました。手続きは

 Step1 SNSで入会したことを宣伝
 Step2 案内されたWebページからRLAに登録
 Step3 サービスの一つであるR(統計ソフトのRとは別)に登録
 Step4 オンライン説明会に参加(30分ちょっと)

でStep1はちょっと怪しいものの、あとは別段負担にならず。「今後盛り上げていきたいから、手伝って!お金は払わないけどサービス特典たくさんつけるし」って感じ?現時点でHost5人、Memberは私入れて38人、非英語圏の方々ばかり(中国、韓国、インド、アフリカ、南米etc)です。とりあえずチャットで引き気味に挨拶して幽霊部員的に様子みることにしました。割引とかしてもらえそうなら続けてみようと思います。

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