二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ:型別資料(観察研究) > Target Trial Emulation

臨床復帰してから足が遠くなってしまった教室のジャーナルクラブ(四大誌を1ヶ月分読む)ですが、先日私の当番だったのでBMJを1ヶ月分ざーっとみることに。やっぱりBMJは国籍も方法も多様で面白い…NE〇MやLanc〇tみたいにRCTばかりじゃないのでとても勉強になります。うち1本を細読して議論するのですが、相当いい論文だったのでまとめておきます。先日Hernán先生の総説を紹介しましたが、そのお手本論文。難しくて全部は理解できませんでしたが涙…

Timing of dialysis initiation to reduce mortality and cardiovascular events in advanced chronic kidney disease: nationwide cohort study

研究疑問 :eGFR〇mL/min/1.73m2での透析導入の生存期間の延長効果は?
研究デザイン :Cohort研究
セッティング :Swedish Renal Registry
*G3-5の腎不全(CKD)患者を登録した政府運営のレジストリ
 - 96%の腎臓内科医が参加,国全体のG4-5の3/4のデータを利用可
*政府運営の薬局処方・専門医診療・死亡データをマイナンバーで突合
*以下eGFRの単位は省略

P CKD(eGFR10~20) 10290人×15
I1~14 透析導入eGFR4~19から1刻みでCを除く14区間
C 透析導入eGFR6-7
O 主要:5年間の全死因死亡 副次:主要心血管イベント(MACE)
  *心血管死、非致死性AMI、非致死性脳卒中の複合

透析導入は理想的には腎機能(eGFR)を基に決めるべきだが、至適eGFRは不明なので現実は臨床経過や所見を基に判断されており、治療成績やコストの差を招いている。早期導入 vs 後期導入のIDEAL試験では差がなかったが、中期導入に至適eGFRがある可能性もある。でも追加RCTは非現実的なので、ビッグデータを用いてRCTに倣った観察研究をしました!というスゴイ研究。

【方法の概要】
・本研究テーマにおける最善のRCT(Target trial)を決定
・target trialを模倣したプロトコルを作成
 - 参加基準を満たした時点をベースラインに設定
 - 参加者のデータを15に複製
 - 15の複製を15の介入(I1~I14とC)のいずれかに割付
 - 15の複製を毎月追跡
 - 割付された介入から外れた時点で打ち切り
 - 人工的な打ち切りの影響を減らすため、時間依存の逆確率で重みづけ
   *分母は「打ち切りされない確率」
 - 外れ値を除外するために、99.95分位点で切り捨て
・動的周辺構造モデルで解析
 - 固定変数:年齢、性、年度、ベースラインeGFR、CKDの原因疾患
 - 固定/時間依存変数:eGFR、eGFR前値、血圧、血液検査値、
   併存疾患、薬剤、入院日数
 - 解析対象はPer Protcol集団 
   *ITTはクロスオーバーが多すぎて不可能
・副次解析は以下
 - 標準化した累積発生曲線を図示
 - 腎移植を競合リスクとした解析
 - 平均生存時間と介入後の生存時間の差の算出
 - 透析導入延期期間と生存延長期間の比較 etc
・感度解析は以下
 - I/CをIDEALに模した解析
 - 透析拒否を打ち切りとした解析
 - 古典的な解析との比較 etc

【結果と結論】 
・10290人の対象者のうち3822人が透析開始
・4160人が死亡、2446人がMACE発症
・eGFR6-7(早期導入)を基準としたeGFR15-16(後期導入)は
 - 全死亡 5.1% (2.5, 6.9)減、HR 0.89 (0.87, 0.92)
 - MACE 2.9% (0.2%, 5.5%)減、HR 0.94 (0.91, 0.98)
 - 1.6ヶ月死亡を遅らせ、4年早く透析導入になることを意味
・IDEAL試験を模した解析では一致した結果
・古典的な解析では全く逆の結果に!(後期導入の方が成績不良)

というわけで、透析早期導入は死亡やMACEの発生を僅かに遅らせるが、透析期間が長くなる負担を上回るかはわからないとの結論。

【批判的吟味】★★★★★
観察研究で因果推論する場合はこうする
のか…という正にお手本論文。複製→打ち切り→重みづけのセットをしないといけないんですね。付録だけで48Pもあって、相当勉強になる論文(というよりむしろ実践的な教科書?)でした。観察研究では交絡の調整は必須ですし、時間依存性交絡を適切に調整しないといけないのはよくわかります。でもさらに不死バイアスリードタイムバイアス選択/生存バイアスに適切な対処をしないと、結果が逆になることまであるということまで示したスゴイ論文。1日かけても理解できませんが、少しずつ読み砕いて勉強していかないといけないです…

【コメント】
脊椎外科領域は「外科」ですので、手術の効果をみたい!ことが多いです。でも現状交絡の調整すら十分できていない観察研究で効果が主張されていることが多くカオスでしかないです。そして交絡の調整だけでも得られた効果は怪しい…というのは何とも厳しい現実。でも介入の効果をみる研究は避けて通れないので、この手法はマスターしないといけません。でもSwedenみたいな悉皆データベースがないとそもそもこれですら非現実的…日本でやるにはまずは悉皆レジストリの構築が必要ですが、その必要性を理解して参加してもらえる人材教育(発掘?)をしないと不可能だし…学べば学ぶほど遠ざかる真実。でも引き返せないので進むしかないです。てかこの論文の筆頭著者博士課程の院生ってどういうことですか涙

学会シーズンになり、私のような者にも色々なお仕事が舞い込んでなかなか勉強する時間が取れてなかったのですが、どんどんア〇になるのを防ぐためにも、無理やり勉強してみます。NEJM様にモグリの私でも知っているハーバードのHernán先生What if?の著者←まだ読んだことないですけど涙)からの、「これは読まないとマズいでしょ」という総説。自分に都合よくまとめますので正誤ご容赦を(随時修正します)。ちなみに小見出しも勝手につけています。

Methods of Public Health Research — Strengthening Causal Inference from Observational Data

<まずはじめに>
・意思決定には因果推論が必要で、基本はRCT
・時間も手間もかかるRCTをすべての疑問に行うことは不可能
 - 観察研究(OR)でRCTを模倣するしかない
 - 重要なのはORで因果推論できるか?ではなく、どうやるか?

<RCTを模倣した観察研究を>
・RCTをする場合は、厳格なプロトコルに則る
 - ORをする場合もRCTのつもりでプロトコルを作ってみる  
 - その上で、全ての交絡因子が利用できれば、OR≒RCT
・HIV研究で、ORの結果を臨床応用しRCTをベンチマークとした例がある
 - やりたいRCTを模倣したORからはRCTに準じた結果が得られる
 - 逆に、RCTを模倣していないORの結果の臨床応用には難あり
・RCTや、RCTを模倣したORではタイムゼロ(追跡開始時点)が揃う
 - そうじゃなければ、選択バイアスやimmotal time biasが生じる

<観察研究の弱点 ~タイムゼロと交絡>
・ORの弱点は交絡が調整しきれないこと、と考えられている
 - でも実際はタイムゼロが揃わないことの方が問題
・でも交絡の調整は必須
 - そのためには良好なデータが必要(解析だけでは克服できない)
 - 必要なデータが使えないORで因果推論はできない
・操作変数法や特殊な前後比較で交絡に対処できる可能性はある

【コメント】
ホントに総論的なところで、思ったより読みやすかったです(完全に理解できた自信はないけど)。介入の効果をみる研究はRCT一択!と思っていましたが、「RCTそうそうできないんだから、全否定せずにどう観察研究すればいいか?考えようぜ」というメッセージには共感。そして「想定したRCTのプロトコル書いてから観察研究すべき」という考えも勉強になりました。まー使えるデータの質が全てなので、結局観察研究で因果推論するのも難しいですけど…てかimmotal time biasちょっと整理しないと。今日は後輩の論文がJAMA→JAMA Surgeryにtransferになったという嬉しいニュースもあり(Reviewに回って、Rejectじゃなかっただけでスゲーことです)、頑張らないと!とやる気がでてきました。さ、勤務先から戻って論文7号の再投稿の準備、学位審査書類の準備、月曜の研究会議の準備…までは今日中にやるぞ…

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