二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ: 論文投稿のすすめ

脊椎外科の最新論文を定期的に読むことには慣れてきたかなと思います。が、進歩するためにはしんどいけど疫学の論文を読まないと!これまでに勉強するたびにJ Clin Epidemiol(JCE: 2021IF7.4)の論文に行きつくので、定期的にJCEをcheckすればきっとためになるはず…ということで、まずはちょっと旧いですが2019年の「Table 1.の書き方」の指南論文から。

Who is in this study, anyway? Guidelines for a useful Table 1

長くなるのでまず学んだことのサマリーを…図は勝手に自分で作ったひな型です。

コホート研究×因果推論で推奨されるTable 1】
・列(Column)に書くこと
 - 全体+欠測なし+(補完)+暴露で解析対象を層化
・行(Row)に書くこと
 - アウトカム、交絡因子、その他(潜在交絡)
 - 効果修飾因子、研究参加や脱落に関係する因子も
 - 連続値をカテゴライズした場合はどちらも
・P値は載せない
 - P値を誤用して交絡を探す輩がいるので
コホート研究(MI)Table1ひな型
これらは論文中のFigure 3に可視化されていてわかりやすいです。
*ここから先は以下は私の意訳

【まずはじめに】

外的妥当性や内的妥当性の評価にTable1は重要で、Table1をみればで交絡、選択バイアス、測定誤差が評価できる。でも最近臨床研究が多様になり、いいTable1を作るのが難しくなってきた。そこで因果推論を想定していいTable1の書き方を提案する(予測や記述研究にもいくらかあてはまる)。

【Table1の基本構造】
・行(Row)に重要な変数を入れた1列(column)の構造が基本
 - 重要な変数は主解析に用いた変数+α
・各セルはカテゴリ値はn(%)、連続値はmean(SD)もしくはmedian(IQR)
・読者は研究対象が想像できるので、外的妥当性が評価できる

<列(column)を考える>
・重要な変数で層化してもよい(とくにExposure)
 - 交絡が評価できる
 - Eが連続値だとカテゴライズを要する
・症例対照研究の場合はOで層化
 - 全体の表は不要(Oなしが母集団の代表)
 - Oありが母集団から抽出されたか(選択バイアス)が評価できる
 - 交絡をみたければOなしを更にEで層化
・P値は?(しばしばジャーナルから要求)

 - P値で交絡かどうかはわからない(から不要)
 - 有意差なし≠差なし
 - 有意差あり≠意味のある差あり or 交絡あり

<行(Row)を考える>
 ・最終モデルに使った変数以外も入れるとよい
 - 潜在交絡、抽出因子、参加や脱落の関連因子
 - 残余交絡や選択バイアスがわかる
 - 症例対照研究なら「病院までの距離」など
 - 効果修飾因子もアリ
・生存時間解析の場合、総人年、各人の要約値、打ち切り変数も
 - 打ち切り変数に差があれば情報打ち切り(内的妥当性の懸念)
 - 各人の要約値で外的妥当性も評価できる
・連続値をカテゴライズした場合は両方のせる

<セルを考える>
・見やすくするためにシンプルに
 - Nは行のheaderに回したり、%は丸めたり
・要約はmean(SD)が基本
 - でもmedian+min/max+IQRが最も情報的
 - 測定誤差、はずれ値の影響などがわかる
・データがなくても空白にはしない

【解析のために】
・欠測は選択バイアスをもたらす
 - 列に「欠測のない完全例」を追加する
 - 欠測と関連する因子がわかる
 - 行にOがあると、欠測がOと関連するかもわかる
 - 全体と完全例にE以外の差がなければ、完全例解析が妥当とわかる
・補完したなら、補完コホートの全体、Eあり/なしの列も

・重みづけをしたら重みづけ後のデータをみせる
 - 対象者数、最大と最小の重み、重みの分布も
 - 非重みづけN数と重みづけの割合を示すとよい

・個人レベルの特徴と、各クラスタの特徴をみせる
 - 各クラスタと母集団の相違がわかる
 - 各クラスタのN数とサンプリング率も記載

【コメント】
なるほど…全体と完全例をわけて、完全例解析でいいか?をみせるんですね~あとEで層化するのは全体ではなく、解析対象集団と。行にはモデルに入れた変数だけじゃなく、ほかの重要な変数や欠測に関連しそうな変数まで載せていいんですね。Oを載せるのも必須と。相当busyになりそう…その場合はSupplementにするのも考慮しなければ。あとP値は個人的には1週まわってアリだったんですけど、やっぱりナシか。でもあった方が読みやすいしなぁ~読者がP値を妄信しなければ悪影響も少ないはず!?


今年ついにDoctor of Public Healthの学位を取得し、(当初は思ってもいませんでしたが)末端構成員ながら研究者としての生活が始まりました。40越えですが「若手」で科研費申請したり、いくつかのプロジェクトに分担研究者として参加のご依頼をいただいたり、慌ただしく充実した生活を送っています。それを言い訳に最近論文読んだり勉強する機会から遠ざかり気味なのですが、臨床も研究も第一線でバリバリやっている同期の誉れから興味深い記事を紹介していただきました。2010年とちょっと旧いですが、Clinical Chemisyry(2021IF12.2)の「よいDiscussion」についての総説。これは読んでみないと…

The Discussion Section: Your Closing Argument

<まずはじめに>
・重要なのは結果ではなく、結果が何を意味するか
・そのためには、Discussionが重要

<コーンをひっくり返せ>
・Introは逆円錐の形、Disucussionは円錐の形
・IntroとDiscussionは離れている
 - Introの最後の目的を、Discussionの冒頭で再掲してOK
 - Introと同じ言葉やkey termを使う
 - そして目的に対する回答を述べる
・その後、既存エビデンスを引用しながら議論を広げる
 - サポート、一致、関連
・更には、この分野にどのように貢献しているかを書く
 - “big picture”のどの部分に該当するか
 - 既存・将来の研究にどのように応用できるか
・最後は1-2文のtake-home messageで締める
 - 力強く締める
 - ×更なる研究が必要、×次の実験にとりかかっている

<Be fair and Balanced>
・アメリカ大手ニュースネットワークのスローガン
・先行研究は適切に引用する
・事実に忠実に、自身の研究成果を誇張しない
・予期せぬ結果も隠さず説明する
・Limitationとalternative explanationを示す

<Transition Wordsを使う>
・重要点を強調し、話題の切り替えを理解しやすい
・例は以下
 - Our results show that …
 - Our first finding that …
 - Our second finding that …
 - Evidence of …
 - Additional evidence comes from …
 - Our demonstration that …
 - Previous studies have found …
 - The results of our study not only …
 - Therefore, …
 - However, …
 - Thus, …

<以下の問に答えられるようにする>
・Discussionの目的は?
・DiscussionとIntroの違いは?
・Discussionに含むべき3つの情報は?
・Discussionのよい締めは?

<さいごに>
・第一印象を決める2回目のチャンスはない
・科学論文では、最終印象を決める2回目のチャンスもない
 - Discussionは最終印象を良くするチャンス

【コメント】
分量も少なく読みやすい総説でした。Introの総説もあるようなので、読んでみないと。「Invert the Cone」はいい表現。まぁ、臨床疫学を志して現在10編目の執筆中なのですが、だいたい内容に合致した書き方はできていたのかなと思います。大きな研究の流れの中で、自身の研究がどの部分に位置し、何を加えられるかについてはもっと考れたかも。さて、早く科研費の準備をして10編目の続きを書かないと。

自分なりに頑張ってもなかなか成果がでなかったのですが、論文書き始めて2年半でようやく論文発表できるようになってきました。そうなると「多くの方に論文を読んでもらいたい」とか、「他人の意見を聞いて次の研究に活かしたい」という真面目な思いや、「学会発表しに行って(ついでに)美味しいもの食べたい」という現実的な思いが沸いてきます。というわけで、論文書いたらさて次の脊椎病学会はどこでやんのかな~となるのは普通じゃないでしょうか(むしろ真面目?)。実際もうすぐAcceptされそうな研究がありますので、さてどこで学会発表しよう?とメンター先生にご相談すると…

 「それ注意した方がいいですよ」

とのご指導あり、事例を教えていただきました。びっくりしたので調べてみますと、文科省のHPに公開されているじゃないですか…概要をまとめると

 A大教授、院生、B大講師が研究を国際学会で発表
 プロシーディングが学会誌に公開
 院生が日本語論文化し、日本の学会誌に投稿し掲載
 二重投稿に認定され、掲載取り消し
 不正事案として調査され、認定
 A大教授は懲戒(停職14日)、B大講師は訓戒

ちなみに、A大教授の「国際学会で発表したプロシーディング論文は、口頭発表の概要と同じ程度であり、人間工学会での論文が正規の論文と考えていたことから、同じ内容で投稿しても問題ないと理解していた」という回答に対し「研究倫理意識の低さからくる」と断罪されています…正直

 マジですか…

という言葉しか出ません。院生は学位論文だったのかな?可哀そうすぎる…共著者もヤラれてるやん…立場ある方にとばっちりいったらヤバいやん…

臨床疫学を学ぶ前は、学会発表は自分の研究に建設的な意見もらって推敲するための、論文発表に向けた修行の場かと思ってました。臨床疫学を学んでからは、前述のとおり、学会発表は論文発表(少なくとも投稿)した後に、研究を広く知ってもらうためのお披露目の場かと思っていました。なにしろ学会発表も「公開」なので、発表後に数字や解析が違ったら研究全体の信頼が損なわれてしまいますので…ところがどちらもグレーのようです(涙)。現時点で私の理解する正しいやり方は

 ①完全に仕上がった状況で学会発表
  →学会発表したことを申請して論文投稿
 
 ②論文発表
  →論文雑誌に学会発表の許可をとる
  →その旨学会に申請してから学会投稿
  *論文が掲載されるまで学会投稿はしない

の2つしかないように思います。①にしてもし採択に影響したら気持ち悪いですし(プレプリント受けないBJJとかは影響するかも…)、②は面倒臭すぎるし…ので、結論としては表題のように「論文化したいので学会発表はしません」になります。テキ〇ーな発表であれば支障ないですけど、そこに割く時間は捻出できそうもない。国内学会への発表であれば演題が公開されないものも多いので、今のところそこまで厳密に考えなくてよさそう。ただ、医中誌に会議録が載る学会への投稿は要注意でしょう。というわけで、今後学会発表は厳選していくしかないです。コロナが明けてもそう簡単には学会に行けないなぁ…発表ないのにあんまり病院空けれないし。学会で旧知の先生と意見交換したりするのは重要なことですし、研究する大きなモチベーションだったのですが…

ディ〇バン事件や、〇TAP細胞の影響か年々研究者の居心地が悪くなっていく気がします。立場が上になるほど相乗的に忙しくなる上に、見合った報酬が得られるわけでもありません。研究を取り巻く環境が「偉くなりたいという野心」や、「ちゃんと研究しないと!という善意」のみに依存している現状では、日本のアカデミック領域は先細りな気が…とりあえず、学会投稿後にacceptされた研究は学会に演題取り下げお願いし、投稿中の論文の学会発表は諦めました(泣)…

先日Springer Nature系の雑誌に論文投稿した際に、「Research Square」と原稿を共有するけどいいか?という旨のcheck項目がありました。OKしないと投稿できないのでするしかないんですけど、ちょっと引っ掛かったので調べてみました。これって「プレプリント」として投稿中の原稿を公開されてしまうのでは?

Research SquareのHPみてみると、やっぱりResearch Squareに原稿がいくと、「In Review」というサーバーでプレプリントとして公開されることがあるようです。一応審査があって、パスすればHTMLに変換されて、CC-BY4.0 ライセンスとDOIが付与されて公開されると。Participating Journals & Platformsをみてみると数百のジャーナル名が…お世話になりそうな雑誌としてはSci Repとかがあります。私が投稿した雑誌は、体験者した先生からいただいた情報では投稿後に「希望すればIn Reviewに載せることができるから、興味があったら教えてね」という旨のメールが来るようです。みてみるとParticipating~には載っていない。じゃあ載っている雑誌なら投稿=公開なのかな。一応「opt in」と書かれているので、勝手に公開されることはないと思いますが…

一応Sci Repでみてみますと
Sci Repプレプリント
こんな感じでやっぱりopt inになるみたいです(そりゃそうか)。はやる気持ちを抑えきれずにYes連打してしまうとプレプリントとして公開になってしまいますので、そのつもりがない人は要注意。ちなみにプレプリントの功罪について(勝手に)まとめますと、以下のような感じでしょうか。

【利点】
・いち早く研究成果を公開できる
 - プライオリティを確立できる
 - 他の研究者がいち早く参考にできる
・投稿原稿の時点で他者が引用可能になる
 - 研究成果として履歴書にも書ける
・プレプリントをそのまま投稿できる雑誌もある(投稿が楽)

【欠点】
・プレプリント公開論文を受け付けない雑誌がある
・洗練される前の原稿が世にでてしまう
 - 改定は容易だが、記録が残る
 - 一旦出ると完全には消せない
 - もし間違いがわかったら恥ずかしい
 - 共著者にもとばっちり
・アイデアパクられて先にいい雑誌に出されるかも?

というわけで、Reviewや著者校正で洗練しようという軽率な考えは捨てて、そのまま公開していいくらいしっかり作りこんで、共著者全員に確認してからオプトインしないと結構問題になりそうです。これは要注意ですね…心当たりがある人はResearch Squareで自分の名前検索してみてください。え?公開されてるやん!ってびっくりすることになるかも…私も恐る恐る検索しましたが、幸い名前なかったのでヨカッタ!?てかライセンスについてもよくわかっていないので勉強しないとだめだなぁ。5年勉強してもわからないことだらけ涙。てかBJJはプレプリント公開論文投稿不可と…怖っ…

立場的に頻繁に論文投稿するわけですが、投稿する度に新たな気づきというか、ん?と思うことがあります。今回は(今更ですが…)多くの雑誌で求められる「ICMJE disclosure form」の提出でちょっと引っ掛かりました。お恥ずかしながら「COIを開示する書類」くらいの認識しかなく…というわけで、一度まとめておこうと思います。てかCOIについてもちょっとモヤモヤしています…

【ICMJEとは】
正式名称はInternational Committee of Medical Journal Editorsで、HPに詳細あり。
・ICMJEは医学雑誌の編集者で構成されたワーキンググループ
・AIM、BMJ、JAMA、NEJM、Lancetのほか数多くの有力雑誌が加盟
ICMJE Recommendations
 ~医学雑誌における学術的研究の実施、報告、編集および出版に関する勧告
 ~旧称はUniform Requirements for Manuscripts (URMs)
 ~転載・翻訳に許可は不要(引用と報告でOK)
Disclosure of Interest
 ~投稿時に各雑誌が提供し、各雑誌に提出する
 ~フランス語、ドイツ語、日本語、韓国語の翻訳がある

【ICMJE開示フォーム】*日本語版の(勝手な)概要
その原稿の内容によって第三者の利害に影響する可能性がある全ての関係/活動/利害を開示するために以下を開示する。開示すべきか疑問に思う場合は開示を推奨

 ①その原稿に対する全ての支援  *研究計画当初から
 ②①に記載していないもの *以下過去3年が対象
 ③知的財産権の利用に対する対価
 ④コンサル料
 ⑤講義などに対する謝礼
 ⑥専門家証言への報酬
 ⑦旅費
 ⑧特許
 ⑨データ安全監視委員会などへの参加
 ⑩組織のリーダーか?
 ⑪株式
 ⑫サービスの受領
 ⑬その他の利益

【コメント】
やっぱりConfrict of Interest(利益相反:詳細はEditageの記事がわかりやすそう)を開示するフォームとの認識でよかったです。疑わしきは開示!なんですね。グラントとったら①にするんでしょうか(グラントとって論文書いたことないので未経験涙)。現時点でも可能性あるな、とちょっとヒヤッとしたのが⑤です。講演で研究成果を紹介してその謝礼をもらうことはあり得るので、ちゃんと過去3年に遡って申告しないとダメですね。気を付けよっと… 

このページのトップヘ