二択で迷ったらアグレッシブな方を選べ

本ブログのコンセプトは 「外科系臨床医に臨床研究について知ってもらう」です。自分で勉強したことを備忘録として気ままに書いていますので、情報の真偽については責任を負いかねます。また専門性が高い方にとっては内容が浅い点、分量が多くて読み辛い点もご了承くださいませ。

カテゴリ: 臨床研究ことはじめ

今年から研究者の端くれとして週1日勤務させていただくことになり、齢40をこえてついに研究者IDをもらって科研費(若手)に応募できることになりました。資格がなかった昨年まではあまり興味がなかったのですが、科研費ってかなり重要なことを実感しています。なぜなら
 
 ・1/3も採択される(若手だと約4割)
 ・作り込んでない人も結構応募しているので、ライバルはそう多くない
 ・若手でも最大500万円と結構額が大きい

からです。今まで概ね自腹でやってきたことを考えると、150万円×3年とかもらえたら随分できること広がるなぁ…これは結構マジでやらねば。ということで現時点でできる努力はやってみたつもりです(成書3冊、大学からの指南資料、採択2例を熟読)。何分初めてなものでまた自分で見直せるように簡単な流れとpit fallをまとめておきます(若手申請について)。

【応募までの流れ】 *私の所属先での流れです
・科研費掛にe-Radへの登録を申請(IDはあったので移行)
・所属長に応募許可をいただく(非常勤なので)
・補助金掛に応募許可をいただく(寄附講座なので)
・科研費掛に応募資格の登録を申請
・応募書類を作成
・事務check締め切り(9/7まで)に応募
 - e-Rad→科研費電子申請システム
 - 学内便でcheck結果が返却
・科研費掛に応募の却下をお願い(さらに修正するため)
・学術研究支援室check(9/14まで)を依頼
・学内締め切り(10/4まで)に再応募

【応募書類作成のpit fall】 *私の現時点での理解です
・指示を必ず守る
 - てにをはが乱れているとそれだけで手抜き評価
・(概要)に命をかける、その次にタイトル
・できるだけわかりやすく(審査は非専門家が殆ど)
 - ぽんち絵を複数入れる(カラーで、でも白黒印刷にも対応を)
 - 漢字や略語を使いすぎない
 - 重要点は下線や太字でアピール(やりすぎ注意、ちかちかする)
 - フォントは統一(明朝が目に優しいかも?)
 - スーッとロジックが入るように(考えさせては×、止まる部分は書き直し)
 - 用語の整合性を(妥当かどうか>統一されているか)
・(1)~(5)で求められていることを必ず記述
・びっしり書く(スペースが多すぎると説明不足)
・自分の業績をしっかりアピール
 - 若手は代表者の面接
 - 学会発表や日本語論文もOK
 - researchmapを充実させる
・重要なのは「ホントに実現できるのか?」
・提出はWordじゃなく自分でPDFにしてから(ズレてないか、図が読めるか)

【コメント】

こんな感じでしょうか。ちなみに「若手」は博士取得8年以内の駆け出し研究者が1人でやる研究が対象なので、分担研究者を決める必要もなく取り組みやすいです(しかも基盤Cと額面も一緒)。8月中旬から本格的に構想練って、9/7までに必死で仕上げて、毎日読んで直して、学術研究支援室からもらったコメントを反映させて…あとは事務checkの結果を反映させて、同志のcheck、教室のcheckを受けて直して今月中に応募するだけです。自分の中では結構いけるんじゃないかな~と期待していますが、結果はどうなるでしょうか。この研究ができたら、ブレイクスルーになる気がするので是非やりたい…てか大学の先生みなこれ毎年やりながら臨床して、授業もしてるの?それで民間より給料安いってどんだけ歪やねん…

昨日のMCRサマーセミナーで、日本を代表する研究者である某教授のご講演が衝撃的でしたので、提示されたデータを紹介させていただきます。

ここ数年、年間20本ほど英語論文の査読をしています。そこそこ名の通った雑誌たちですが、Topジャーナルではないので怪しい論文が多く届きます。その殆どが中国からですので、誤解を恐れずに申しますと「中国はめちゃくちゃやな」と思っておりました。でも、めちゃくちゃな論文も多い一方、インパクトのある論文も実は多いようで、アカデミックな領域で中国はもはや世界のリーダーになりつつあるようなのです。

で、まずは年代別の出版論文数です(私が気になる国をpick-up)。
年代別論文数年代別Top論文数
1999ー2001年の時点では、日本の論文シェアは米国に次ぐ世界2位でした。Top10雑誌に限定した論文数でも、英国とドイツ(図にはありません)に抜かれるも4位に。ところがそこから20年で中国が急速に発信力を高め、2018ー2020年には論文数でもTop10論文数でも米国を凌駕し世界一になっているのです。一方日本は論文数は5位に踏みとどまっているものの、インドに抜かれ韓国に迫られています。Top10論文に至っては韓国にも抜かれ12位に。
Top10ヵ国の論文数Top10ヵ国のTop10論文数
最新の論文数のTop10ヵ国と、Top10論文数のTop10ヵ国の図がこちらになります。論文総数が5位で、Top10論文数が圏外ということは、発信する研究はそれなりに多いのに、いい雑誌に掲載される論文が少ない、という悲しい事実がみえてきます。某教授は「これまで頑張って研究してきたが、より悪い状況で次の世代にバトンを渡さなければならない」という内容をコメントされていました。バトンを受け取るのは我々世代です。

完全な想像ですが、中国の躍進は「研究することによるメリット(もしくはしないことによるペナルティー)」と、「潤沢な研究資金」なんじゃないでしょうか。日本では研究するメリットが少なすぎます。民間の医師が、一流大学の教授の倍報酬を得ている…そして自由に使える時間は後者の方が断然少ない。そして研究しようにも、研究資金が充足していません。日本経済の閉塞感からすると、この状況が改善するのは当分期待できそうにない…

じゃあどうすればいいんでしょうか。対抗策は「教育」?臨床研究において、「これまで当たり前のように行われてきたやり方」が実は間違っていることが多いです。でもそれがわかる人は少ない(とくに脊椎外科領域)。より適切な臨床研究の手法を学ぶ機会が増えて、いい臨床研究が増えて、状況が改善する方向に向かえばいいのですが。でも結局研究や教育に使える時間と、その時間に対する報酬が確保されないとやる人増えないよなぁ…

Doctor of Public Healthの公開審査を何とかパスし、5年におよぶ院生生活を終え、学位授与の是非が決定する教授会まであと数日となりました。4月になった実感もないまま研究者としての非常勤勤務が始まり、息つく間もなくGWが終わって…「学生だから」という甘えはもう通用しません。これからは(も)人生かけて臨床と研究の両立に取り組まないと。ダラダラしているとどっちも1軍に上がれないまま引退する羽目に…

さて、そんな目まぐるしい生活のなか、ついに他大学との大型共同研究の第一報である7号がPCPD(IF5.6)にacceptとの嬉しい知らせが。開始からはや3年、クラウドファンディングも含め相当多くの方にご助力いただいた研究でしたので、インパクトのある雑誌に受理されて本当に嬉しいです。

 1号 JBJS→OAC→CORR→Spine J→Spine(15ヶ月)
 2号 Spine→Eur Spine J→GSJ→IAOEH→PLoS One(15ヶ月)
 3号 BJJ→Spine J→Spine→JNS-Spine→Eur Spine J→
JAH→BMJ Open(22ヶ月)
 4号 Eur Spine J→GSJ→SSRR(3ヶ月)
 5号 BJJ(8ヶ月)
 6号 BJJ→Spine J→Eur Spine J(5ヶ月)
 7号 J urol→Eur Urol→BJU International→PCPD(7ヶ月)
 8号 SSRRに投稿準備中
 9号 JNS-Spine→Spine→GSJ→NMC
 10号 粗解析終了
 11号 粗解析終了
 12号  データクリーニング中

で、7勝24敗で1戦試合中です(打率.226)。やっと阪神時代の新庄の打率くらいまで持ち直してきました。2年半で30戦以上しましたので、査読者とのやりとりの引き出しも大分増えてきました。でも未だに投稿する度に新たな発見がありますので、まだまだ勝負しまくって経験積まないといけません。

7号論文は国民代表集団を対象に、ある泌尿器疾患の有病割合とQOLのインパクトを測定した大規模な研究です。研究参加前は、お恥ずかしながら疾患の存在すら知らなかったのですが、相当数の潜在患者が適切な診断や治療を受けられず困窮していることがわかり、驚きました。疫学者の端くれとして、この領域の研究を進めなければいけない責任を感じております。正直専門外の領域だったので当初は随分苦労しましたが、何とか形にするお手伝いができて本当によかったです。というか、正直自分の力不足で折角の研究がうまく発信できなかったらどうしよう、という重圧から解放されてヨカッタ涙。個人的にも、大きなプロジェクトを1つの形にする過程が経験できて、相当勉強になりました。さ、第二報(10号)の論文化に進まなければ!それにしても泌尿器領域はIFが高い雑誌が多くて羨ましい限り…脊椎外科系の専門誌はMAXでJBJS(IF5.3)なので…

こないだ2月になったばかりと思っていたらもうすぐ3月…学位審査まであと2週間ちょっと、確定申告もしないといけないしホント時間が経つの早すぎます…もう臨床復帰して3年ですし。昨日は意図的にワインで寝落ちして、今日も早朝からジタバタしていたところ、初回投稿から2年近く迷子になっていた3号がようやくBMJ Openにacceptとの嬉しい知らせが。貴重なデータを無駄にするわけにはいかないのでほんとヨカッタ…これで現状は

 1号 JBJS→OAC→CORR→Spine J→Spine(15ヶ月)
 2号 Spine→Eur Spine J→GSJ→IAOEH→PLoS One(15ヶ月)
 3号 BJJ→Spine J→Spine→JNS-Spine→Eur Spine J→
JAH→BMJ Open(22ヶ月)
 4号 Eur Spine J→GSJ→SSRR(3ヶ月)
 5号 BJJ(8ヶ月)
 6号 BJJ→Spine J→Eur Spine J(5ヶ月)
 7号 J urol→Eur Urol→BJU International→PCPD
 8号 SSRRに投稿準備中
 9号 JNS-Spineに投稿準備中
 10号 粗解析終了
 11号 粗解析終了

で、6勝22敗で2戦準備中です(打率.214)。臨床復帰して1号を書き始めて、年2本のペース…6ヶ月に1本か。色々なご相談やプロジェクトをお待たせしてしまってますし、折角ここまでご指導いただいたし、3ヶ月に1本(年4本)くらいを目指したいところです。「常に2本は原著論文投稿中」を維持するためにも、早く8号9号を投稿しないと…4月からはついに院生生活が終わる(予定)だし、新たな戦いが始まります。学位審査が終わるまではそれどころではありませんが、3月中にせめて10号の草稿までは…

3号論文は貴重な住民コホートのデータをいただき、後弯姿勢と将来の死亡/要介護の発生との関連を検証しました。脊椎外科では「後弯姿勢は悪い」ことはアタリマエで、「どう治すか」の議論が盛んです。しかし実は「後弯姿勢は悪い」ことは十分に検証されていませんでした。というわけで勇んで整形・脊椎系の雑誌に投稿したら「画像評価がない後弯とか〇ね!」と総スカン。私が臨床系の雑誌に固執したせいで随分時間がかかってしまい共著先生方にも多大なご迷惑をかけてしまいました…ただ、お蔭で投稿や査読対応で相当色々経験が積めましたので、次に活かそうと思います。今後も挫けず

 ①理想 BMJ、JBJS、BJJ
 ②本命 Spine、Spine J、JNS-Spine、JAMA-NO
 ③対抗 Eur spine J、Sci Rep
 ④抑え BMJ Open、PLoS One、SSRR、Neurospine

で粛々と発信していこうと思います。ワインで息抜きしながらでも早くオミクロン落ち着いてジムワーク再開しないと血糖値が涙

今日は初めての上下カメラ、鎮静でした。ずっと喋ってたらしいですが記憶なく、何の苦痛もなく知らない間に終わってました。ドルミカムすげぇ…というわけでばたばたしてあまり勉強できず。帰るまでの時間に、気分かえて日本語の教科書読んでみます。京大佐藤教授らの「これからの薬剤疫学」という本で、データマネジメントのことなど身につくことに期待。備忘録的に覚えておきたいことを(意訳して)まとめておきます。

【覚えておきたいこと】 
・リアルワールドデータは2種類 ≠ リアルワールドエビデンス
 - 電子カルテ/レセプトデータとレジストリ
ビッグデータを使った因果推論(target trial法)が登場
 - RCTの枠組みでもあるestimandも導入できる
・患者レジストリが増えるかも
 - 疾患外の情報が少ない、保存例がないことが問題

・ネスティッドケース・コントロールではHRが出せる 
 - 時点マッチング+条件付きロジスティック回帰
・EHRが利用できる場合はコホート>ケースコントロール(例外あり)
ケースコントロールのマッチングの目的は効率
 - 交絡調整ではない
・ケースは(OR1の場合)4倍あればOK
 - そうじゃない場合は10~20倍必要かも?
暴露群のみをもちいた自己対照研究も登場
 - 暴露をうけたリスク期間を設ける自己対照ケースシリーズ
 - アウトカムに影響するリスク期間を設けるケース・クロスオーバー
 - アウトカムの発生が曝露の前後かで比較するSequence symmetry analysis

・効果指標の修飾が予想される場合の対処
 - 交互作用項をモデルに入れる
 - 効果修飾因子のサブグループ解析
 - 標準化
・感度解析はアウトカム、暴露、交絡

・リアルワールドデータ解析の流れ
 - データ抽出
 - データチェック(件数、欠測、分布、論理)
 - 前処理(構造の変換、誤り修正、補完、カテゴリ化)
 - データセット作成・解析
 - プロセスチェック
・欠測の取り扱い法は以下
 - 完全例解析
 - 多重補完法(未だ発展途上、安易な使用は避けるべき)
 - 重みづけ解析
 - その他
・欠測メカニズムがNMARの場合
 MARを仮定した解析+パターン混合モデル、セレクションモデル
・時間依存性交絡、バイアス解析につづく

【コメント】
基礎的なところをナナメ読みすることもできるし、少し踏み込んだ情報もあるし、もっと踏み込んだ情報が欲しい場合の参考文献の紹介もあるし、200P弱と重くないし、素晴らしい本でした。とくにcolumnは知りたいことがたくさん書いてあり参考になります。これは大学院受験考える人は買った方がいいと思います。Estimand、欠測の重みづけ解析や、NMARの場合の取り扱い法も勉強しないと…またtarget trial法も紹介されてたな。今はかなり勉強に無理やり時間割いていますが、臨床も疎かにできませんし時間がいくらあっても足りません…

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